目の前の状況に上手く考えが纏まらない。俺は今、何をすべきか、導き出そうとすると明の顔が浮かぶ。

(俺に同情してたのか?)

 あれこれ世話を焼いてくれた事に対して感謝はすべき。だけど、かわいそうだからしてくれたなら嫌ーー

「嫌だ」

 健太郎の表情が豹変する。険しい顔は明で見慣れたが、明がするしかめっ面と全然違う。

「サツキに拒否権ない。さっさと着替えろ」

「金を取らない代わり、キス写真で俺をずっと脅し続けるんでしょ? 俺に首輪でもつける気?」

「サツキのくせに生意気な態度を取るなよ! こっちはおばさんに話してもいいんだぜ?」

「母さんは関係ない! 俺も健太郎のおばさんに話す? 揺すられてるって学校へチクろうか?」

 大人を介入させればどうなるかなんて、頭が悪いからこそ承知している。お互い1人しか居ない身内を悲しませた挙句、退学処分となるだろう。

 レースがふんだんにあしらった服を叩き落とす。すぐさま胸ぐらを掴まれるも掴み返してやる。

 あぁ、考えてみると俺と健太郎は頭の出来はともかく、境遇が似ていた。健太郎は生活環境を映す鏡みたいだったんだ。

 取っ組み合い、床を転げ回ろうと仲裁に入る大人は不在。喧嘩し慣れない拳が額へクリーンヒットし、いったん距離をとる。

「ーーっ! 加減を知らないのかよ! 当りどころが悪いと取り返しがつかないぞ」

「知るかよ! はは、首輪だっけ? つけてやる!」

 こめかみの辺りが鈍く痛む。本気で殴る気のない俺に比べ、健太郎は容赦ない。ついに武器になりえる紐を手にした。