「つまり負けを認めるんだね、サツキ」

 キャスター付きの椅子がくるりと回転し、鼻先で足が組まれる。塾帰りの健太郎はテスト結果が良くなかったらしい、俺を部屋に上げるなり正座をさせた。

「……あぁ、道永を惚れさせるなんて無理だったんだ」

 賭けの勝敗がついた事で田中達も合流すると思ったが、姿は見当たらない。カーテンが閉まったままの薄暗い空間は居心地が悪く、そわそわしてしまう。

「だから告るだけにしとけば良かったのに。ツケが倍に増えただけじゃん」

「あはは、一発逆転を狙ってみたんだよ」

「ふーん、一発逆転ね。それでツケを払う当てはある訳?」

「……」

 あるはずもなかった。だからこうして詫びに来ている訳で。このピンチを乗り切る為なら土下座をしたっていい、覚悟はある。
 深呼吸して健太郎を見上げた。

 頭の回転が早く、賭け事では負け無し。健太郎は道永とは違ったタイプの切れ者で、そもそも敵う相手じゃないんだ。

 健太郎とは一緒に居ると退屈しないからつるんできたが、退屈をしないイコール楽しいではないと俺は気づき始める。
 ふんぞり返ってこちらを見下す姿勢に友情は宿っていない。

「金はバイトをして返す」

「はは、不器用なサツキにやれる仕事なんかないだろ。それにバイトを始めたら遊べなくなる」

 常に誰かをはべらせていないと落ち着かない健太郎。俺はそんな寂しがりな部分に共感していたんだろう。

「田中や山田が居るよ」

「あいつ等じゃ物足りない。やっぱりサツキじゃないとさ」