「ほら、これ食べろ」

 新しい皿が置かれる気配がする。

「口の中、痛いんでしょ?」

 道永は改めてカレーを食べているようだ。辛さが得意な人さえ息を吐きつつ食べていて、そっと視線を上げてみた。

「ーーおめでとう」

 すると赤い顔がショートケーキとクリームソーダを示す。

「な、なんで?」

「誕生日だろ? おめでとう」

「……」

 俺は予想もしておらず、固まってしまう。

「誕生日おめでとう」

 祝うテンションにしては平らな言い方なのに、これ以上ないほど響く。きっと胸が震えるってこんな時をさすんだろう。

「あ、ありがと。嬉しい」

 座り直して伝えた。

「見て分かる通り、スーパーで売っているケーキだぞ。本格的なものじゃない」

「そんなの関係ないし。俺の誕生日をなんで知ってる?」

「……君が言ったんじゃないか。自分は7月生まれのサツキ、誕生日は明日だと」

 名を呼ばれ、キュッと締め付けられた。俺の胸はさっきから震えたり、苦しくなったり忙しい。

「顔、赤い。道永」

「カレーのせいだろ。君こそ、赤い」

 しかめた仕草が見たくなり挑発すれば、され返す。

「カレーのせいだよ。それより君じゃなくサツキ、サツキって呼んで」

「は? 何故?」

「いいじゃん、誕生日プレゼントだと思ってさ」

「これ以上望むのは贅沢だぞ」

 それでも耳を澄ませ、呼びかけられるのを期待する。

「さ、サツキ」

「ん、何? 明」

 ケーキを食べる素振りで道永の顔をあえてみない。俺達はもっと、もっと赤く染まったに違いない。
 名前を呼び合うだけで照れる。それは自分が知る友情に当てはまる温度じゃなくて。

 ーーその時だった。ポケットの中の携帯電話がメッセージを受信する。