「ゴホゴホッ、ゴボ、か、からい!!」

 燃えるような辛さで前のめりになり、水を煽る。

「まさか辛いのが駄目とか?」

 道永は自分のコップを渡しつつ驚く。これほど取り乱しておきながら否定しても意味はないだろう。痛みでしびれた舌を出して頷いた。

「どうして食べられないって言わなかったんだよ」

「食べられない訳じゃねぇし!」

 プルプル震えたスプーンでもう一口しようとすると腕を掴まれる。

「やせ我慢はよせ。こんな風に無理をされても楽しくない」

 もう片方で俺の皿を回収してしまう。

「楽しくないって……」

 引っ掛かった言葉を繰り返す。

「材料費を出してないのもあるけど、お前が食べたそうにしてたから! 俺は、俺は」

「結局、材料を無駄にしてる」

「だから食べるって!」

 スプーンへ顔を寄せてジャガイモとニンジンを砕く。甘みはちっとも感じられないものの、大きさが揃った野菜は道永が切った。

 目尻に涙がたまる。そうまでして食らう姿に呆気にとられた道永は瞬きを暫く忘れていた。

「……遠慮なんて君らしくもない」

 眉間を揉む。

「お前こそ、賭けの事があって俺と一緒に過ごさないといけないじゃん! せっかくの休みが台無しだろ? さっさとキスして解散する?」

 麻痺した舌は言わなくていい事まで告げてしまう。再びむせてしまい、乱暴に道永を払った。

「……とりあえず口直しできそうな物を持ってくる」

 ため息をつき、道永はキッチンへ入っていった。
 俺はというと椅子の上で膝を抱き、丸まる。

 これから俺達は賭けに勝つ為、キスをする。キスに深い意味がなくとも意識はするし、なんだかモヤモヤして苛立つ。
 心に薄い膜が張られ、自分の気持ちなのに見えない。