「よし、あとは煮込むだけ。ご飯は炊けてる?」

「あと5分くらい」

 カレー作りは至って順調に行われた。スーパーでの気まずさを蒸し返したりせず、キッチンに並んで調理する。

 道永は最初こそ俺が料理できるか疑っていたみたいだが、玉ねぎをみじん切りして炒める様子を見せたら何も言わなかった。

 黙って何かをするのはあまり好きじゃないものの、道永が付け合せのサラダを作っている音が心地よくて、こういうのも悪くないなぁと。

「さっき歌ってた歌さ」

「あ、俺、鼻歌うたってた?」

「機嫌よくな。何ていう曲?」

 コトコト鳴く鍋を見下ろし、刺激的な香りを吸い込む。甘口しか食べられない身体はそれだけでひりつく。

「タイトルは知らない。母さんがよく歌ってて覚えただけ」

「そう」

 道永は皿やコップを用意しつつ、鍋の様子を伺う。てっきり明日や明後日まで食べられる量を作るかと思いきや、昼と夜の分で調整してある。晩飯はカレーうどんらしい。

 ちなみに俺も食べる人数として含まれ、そうなるとカレーが続こうと文句は言えない。

(それって夜まで居てもいいって意味だよな?)

 下唇を噛み、嬉しさを留める。どうせ家へ帰っても居場所がないし、今日はこれでも誕生日なんだ。

「いただきます」

 道永が言う。

「いただきます」

 俺も続けた。けれど道永が眉を寄せる。

「君は召し上がれと言うべきじゃないか?」

「は? どうでもいいーー」

 言いかけ止めておく。

「召し上がれ」

 挨拶して一口。
 瞬間、俺はむせた。