道永はひらりと会話を避けると行ってしまった。賭けの動向を探っても良さそうなものだが、そんな素振り一切しない。

「なぁ、あんなヤツを落とせる? 他人に興味が無さそうなんだけど?」

 確かに女の子にする対応より更に厳しかった。視界にすら入れてない。

「はは、分かんない。ツケ、倍になるかも」

 弱気になる俺に田中が目配せする。

「そしたら健太郎に一緒に謝ってやるって! サツキだって知ってるよな? あいつも本気で金を取りたいんじゃない。面白ければいいんだ」

「ねぇ、俺が道永とキスしたら面白い?」

 ポツリこぼれる疑問は即座に笑い飛ばされた。

「あはは、面白いに決まってるだろ! あんな優等生がサツキを好きになるとか」

「道永をかっこいい、かっこいいとか騒いでる連中がどんな顔するか考えてみな! 俺達はサツキがミラクルを起こすのを信じたい気持ちもあるんだぜ!」

 目尻に滲む涙を拭い、腹を抱えている。俺も昨日まではこういうリアクションしていたし、いけすかない優等生を陥れるのが楽しいと感じていたはずなのに。

(どうしよう、全然笑えないや)

「道永を待たせてるし、もう行く」

「頑張れよ! 写真、期待してる!」

 実際は道永の優等生という完璧な仮面を使い、騙し返す訳で。まんまと計画にはまった姿に罪悪感がもっと込み上げてもいいが、そこまで気持ちは動かない。

 なんなら店の出入り口で街並みを眺める道永を見付けた時の方が、ドクンッと胸を打つ。