買い足す食材があるらしく駅前のスーパーへやってきた。なんでも休みの日に1週間分の作り置きをするそうだ。
 その話を聞いて「良いお嫁さんになれる」って茶化さなくて良かったと思う。野菜を選ぶ道永からは必要に迫られている感じがしたから。

「カレーなら作れるよ」

 言ってみるとパチパチ瞬きをする道永。

「たまには誰かの手料理を食べたくなるって母さんが言った事があって。カレーの作り方、覚えたんだ」

「……へぇ」

 気味悪がられるかと身構えたが、道永はさっそく商品を戻すと空になったカゴを差し出した。

「カレーしか作れないからな?」

「そういえば家に泊めた礼をしたいんだっけ? 材料費は僕が出すから作ってくれ」

「普通のカレーだけどいいのか?」

「君にスパイスから調合して作れとは言わない。野菜と肉はあるからルーを買おう」

 休日の店内は賑わい、家族連れが多い。ショッピングカートとカートの間を縫う足取りが心なしか軽やかに映る。
 一方、俺は母さんの話題を出したついでに携帯を取り出す。

(今日は一応、俺の誕生日なんだけどね)

「谷から連絡があった?」

「……ない、誰からも。谷はこの時間は塾に行ってる」

「そうか。焦るのは良くないが、なるべく土日のうちに片付けたいよな」

 健太郎のアクションを待たずともキス写真を撮れば解散できる。俺が罰ゲームだとしても心の準備は必要と尻込みした為、こんな手間をとらせているんだ。
 賭けの件を忘れがちな自分に気づく。

「辛さはどうする? 僕は辛いのが好みなんだが」

「うん、一番辛そうなやつにしようぜ!」

 本当は甘口しか食べられないのにノリで答えていた。