道永の眉がもう1段階、深く寄せられた。ただし、この寄せ方は怒っているんじゃなく困っているのだ。
 あまりにもしかめっ面ばかり拝まされ、険しさの違いを区別できるようになってきたらしい。

「これは裏の顔というより素の顔なんだが? そもそも知らない人に付いていかないと習わなかった?」

 そこまで言うと道永は再び出口へ向かう。そして2、3歩歩いた辺りで振り返る。

「何してる? 早く付いてこい」

 ここは図書館。沢山の知識と物語が並べられていて、現在の僕と道永の関係性を表す言葉が存在するだろう。
 それでも俺は自分で知りたいと思ったんだ。

「これからどうする? ゲームセンター、ボウリング、カラオケは?」

 隣に並び、尋ねる。

「金は?」

「もちろん、道永のオゴリ。俺、持ってないもん。社会経験の一環で行ってみる?」

「行かない。帰って料理の作り置きでもするかーー君も食べるよな?」

 眉間を揉む道永。

「……おぅ!」

「手伝うんだぞ?」

「分かってるって! 働かざる者食うべからず、だよな?」

「ふむ、餌付けの効果がきちんと出ているようだな」

「サイコロステーキとクリームソーダ、それとーーショートケーキが食えればもっとお利口になるぜ?」

 頭に両手をかざし『わんわん』鳴き声に合わせてヒラヒラさせてみる。

「そんなものを買う余裕はない。諦めろ」

 いちにもなく提案を却下されたが、不思議と腹は立たなかった。