「あの、少しいいですか?」

 図書館から出ようとした時、そんな声に呼び止められる。
 彼女等の気配にうすうす勘付いていた俺が聞こえない振りを決め込む側、道永は律儀に立ち止まった。

「何か?」

 不思議そうな顔で応じている。女の子2人組はタタッと距離を詰め、そんな道永を覗き込む。

「帰るんですか? アタシ達も帰るところで!」

 憧れのイケメンを前にして目を輝かす。

「え、あぁーー知り合いか?」

 俺は静かに首を横に動かした。

「実は前からカッコいいなって思ってて、良かったらこれから一緒に遊びません?」

 今回は俺が同行しているというのもあり、声を掛けるハードルが下がったのだろう。道永単体だと近寄りがたいのは分かる。

(分かるけど……健太郎達と遊んでたなら迷わずオッケーしてた)

 読書が早々に切り上げられた事により、俺の頭は次なる予定を色々と巡らせていたんだ。ゲームセンター、ボウリング、カラオケ、道永が行かなそうなスポットを紹介しようかなって。

 痛んだ毛先を雑に掻いたらピアスで指を傷付けてしまう。

「痛っ」

「どうした?」

「別に。で、どーする? 遊ぶの? 道永が誘われたんだから決めなよ」

 丸く小さく出血する指を見下ろし、道永と目を合わせない。

「お前にも声を掛けたんだと思うぞ」

「俺はオマケだってば」

 薬にもならないフォローをされ、鼻で笑った。

 ぐいぐい話をする女の子はともかく、もう1人は固唾を呑んで事態を見守っており、道永への好意を明らかに宿しているじゃないか。
 だったら俺も隠さず不機嫌になってやる。

「いきなり声を掛けてしまってごめんなさい。用事があるんですよね?」

 すると雰囲気の悪さに耐えかね、その子が口を開く。