「ーーなぁ、よくここに来る?」

「試験勉強をしに来たりもするけど。それがどうかした?」

「逆ナンされる?」

 自分でもこんな質問するのか意味が分からない。道永も訳が分からないってリアクションをする。

「ここ図書館だけど?」

「そ、そうなんだけど。こういう場所で実はあなたの事が気になってましたとか言われるの、よくない?」

「……君の趣向をとやかく言うつもりはないが、屋上で告白といい、漫画みたいなシチュエーションが好きなんだな」

「単純って、俺は!」

「うるさい」

 次はちゃんと叩かれた。

「何故ニヤニヤする? 気味が悪いぞ」

「俺、その本、好きなんだ」

 さっと話題をすり替え、顎で内容を指す。
 道永は視線をたどり、文章を指先で撫でた。

「ざっくり目を通した感じ、いかにもな結末を迎えそうだな。お姫様は王子様と幸せに暮らしましたとさ、みたいな?」

「そこがいいんじゃないか〜」

「紆余曲折あって、困難を乗り越えてこそのハッピーエンドが醍醐味だと思うが?」

「童貞のくせによく言う」

「ーーだからこそ、だろ。何も知らないから夢が見られる」

 童貞と茶化せば眉間を揉むと予測したが、道永は不快感を出さない。それどころか意味深な言葉を足す。

「どうせ蓋を開けてみたらこんなはずじゃなかったとか、そんな人間とは思わなかっただの幻滅されてしまうんだ」

 発言の意味を掴ませないように言い終えるなり、読書へ意識を戻した。
 道永は俺が持ってきた本を読んでいる。