休日の図書館は混み合っている。これまで利用してこなかったし、物珍しに辺りをキョロキョロ見回す。

 絵本を広げる親子、勉強する同年代、新聞を読む大人の姿が静かな空間に集う。

 道永はといえば目当ての本を借りるなり、さっそく読み始めた。どうやら俺に館内を案内する気など更々ないらしい。

 仕方なく図鑑がありそうな棚を探しているうち、懐かしい背表紙と出会う。

「うわっ! これ、俺がよく読んでたやつじゃん!」

 普通のボリュームで言ったつもりでも周囲から注目を浴びる。本の整理をしていた女性は唇の前で人差し指を立て、もう片方で側の『お静かに』というポスターを示す。

 俺はすごすごとその一冊を抱え、道永の隣へ戻った。

「読めそうな本でもあったのか?」

 視線を落としたまま尋ねられる。道永はもともと大きな声で話をするタイプじゃないけれど、内緒話みたいに掠れた声が妙に大人っぽい。シンプルな無地のシャツとデニムを履いた格好かよりそう感じさせるのかも。

「これ」

 タイトルを道永へ向けてみた。

「……どういう話?」

「読んだ事ないの?」

 道永に知らないことがあるのが意外で、うっかり口調を弾ませてしまった。すぐさま注意される。

「静かにしろ。騒ぐな、追い出されるぞ」

 続けて頭でも叩かれると身構えたものの、道永の指は襟足を撫でただけだった。

「寝癖ついてる」

「へ、あ、だって、早くしないと置いていかれると思ったから」

「君に留守番させたら冷蔵庫の中身を食い尽くされる」

「ひでぇ言い方、そんな真似しねぇし」

 栞をはさみ、僕の方を見る一連の仕草がスローモーションで再生される。
 道永の背後にこちらの様子を伺う女子達が居た。