俺だけがこんもり盛れるはずなく、可能な限りジャムを薄く伸ばす。
 これほど涙ぐましい節約をして成し遂げたい事とは? 是非とも知りたい。

「貯めた金の用途? 君には理解しがたいよ」

「あ、出た、決め付け。話してくれなきゃ分からないだろ?」

 あーん、トーストをひと齧り。あんな量じゃマーマレードの味なんてしやしない。甘酸っぱい香を探して丁寧に噛む。

「そもそも他人に理解して貰う必要もないから」

 目玉焼きは焦げて苦いだろうに、道永は表情を変えず平らげていく。

「言いたくないならそう言えば? 俺も無理に聞き出そうとは思わない」

 無理に聞き出そうとしないと言ったものの、拗ねてしまう。

「悪い、僕は重大な事は人に話さない主義でね」

「カッコつけやがって! ミステリアスな僕は格好いいだろうみたいな感じ?」

「君がそう感じるなら否定はしない」

 金の使い道に対しては頑な態度をとられる。ポーカーフェイスを崩せそうもない。俺を駄犬扱いするけれど、大事な秘密を埋めて隠す道永こそ犬みたいじゃないか。

(道永を犬にたとえるとーー)

 いたずら心で巡らす。顔は良く体格もよい。硬そうな髪質は黒くて、切れ長の瞳も同じ色をしている。

「シェパードだな」

「は?」

「こっちの話。俺も図書館行っていい? 犬の図鑑みたくなってきた」

「図鑑? 構わないが館内ではしゃぐなよ? 飲食も禁止だからな?」

「んなの分かってる! いちいち注意しやがって先生かよ!」

 残りのトーストを押し込み、椅子を蹴る。すると無言の圧力を掛けられた。

「……ご、ごちそうさまでした」

 おずおず座り直して手を合わせ、挨拶。

「僕は良いドッグトレーナーになれるかもな」

 道永が真顔で言った。