勉強を教え合う? 当然そんなやりとりはしていない。けれど嫌な気はしなかった。これは他人を傷付けない嘘だから。

『うん、うん。それじゃあ切るから、分かってる、はい、お休みなさい』

 通話が終わる気配に体勢を戻す。少ししてドアが開き、リビングへ出てきた。足音をさせないでキッチンに入っていく。

「はぁ……」

 道永は蛇口を捻り、ため息も絞り出す。ゴクゴク飲み干す音が異物を押し込むみたいに大きい。

「起こした?」

「……」

「君、たぬき寝入りが絶望的に下手。別に聞かれて不味い話じゃない」

 指摘され、もぞもぞキッチンを覗く。
 道永がシンクに両手をついてこちらを見ていた。カーテンの隙間から漏れる頼りない光が濡れた唇を照らす。

「まさに優等生って感じの話し方だった」

「定期連絡ってやつだ」

「俺を友達だって嘘付いたくせに〜」

「友人が居ないと心配させる」

「誰とつるんでるイメージはないけど、友達居ないんだ?」

「谷達みたいなのを友達として数えるくらいなら1人でいいよ」

 ほら、また眉間を揉む。