あっけらかんと語った俺に疑われる隙はない。

「どうなのさ?」

 頬杖つき、繰り返す。もう片方で傷んだ毛先を弄ったらプチプチ切れる。

「聞いてどうする?」

「俺は素直に答えたじゃん。男子高生らしい話題だろ? これからキスする相手を知りたいというか」

「知ってどうする? そもそも同性とキスを経験していない方が多い」

「うわぁ〜論点ずらしちゃったよ、この人」

 俺だって知っている。もし俺が女ならこんな生活をして無傷でいられるはずないことを。
 こちとら女なら良かったって散々言われてきたんだ。まれに男で構わないと言う奴もいたけれど。

「野郎とキスするのが萎えるんだったら、女扱いしていい。あっ、女装しようか?」

「……」

 そんな風に言ってーーと、眉間を揉むかと思いきや、道永は薄く開いたまま浅い呼吸をする。まるで僕に傷付けられたみたいな反応だった。

「道永?」

「……君は、君は自分をもっと大事にすべきだ!」

 コップが倒れる。器用にこなせる指を真っ赤にするほど加減せず叩き付けたのだ。