「雑炊ーーって鍋のシメの時くらいしか食った事がない」

 道永の家は駅前に建てられたマンションの最上階。家具や家電が充実しており、スリッパまでふかふか。いかにも金持ちが住む世界に通されたものだから、目の前に雑炊を出されて戸惑う。

「嫌なら食べなくていいぞ」

 頂きますーー道永は挨拶をすると『フゥフゥ』真顔で息を吹きかける。

「イメージが違わない? 冷蔵庫だってあんなに大きいし。このお椀も高そうじゃん?」

 4人掛けのダイニングテーブルへ向かい合って着席し、不満を訴えた。

「スーパーで肉やお菓子を買ってたよな?」

「あれは僕の食料。君に食べさせる為に買った訳じゃない。で、食べないの?」

「に、睨むなよ。食べる」

 背に腹は代えられない。レンゲを手に取った。雑炊の他におかずがなく、なんとも寂しい食卓。俺のうちでもカレーにはサラダが付いているのに。

「頂きますをきちんと言ってから食べろ」

「はっ、母さんかよ! い、頂きます」

「どうぞ。召し上がれ」

 リズムよく返され、ポカンとしてしまう。

「何?」

 しかめっ面で首を傾け『フゥフゥ』を続けている。猫舌なのかもしれない。

「マジで母さんかよ、召し上がれって」

「君の家では挨拶はしないのか? 頂きますとごちそうさま、おはようとおやすみなさいはセットーーかも、しれない、な」

 滑らかに一般常識をのべていたが、途中ハッとして語尾を濁す。