「まさか、まさか、道永は1人暮らしとか?」

 思いがけない情報に俺はピョンピョン跳ね、後をついていく。

「だとしたら? 両親は不在、海外出張に行っている」

「わぁお! それはラッキーじゃん。女の子、連れ込み放題じゃないですかぁ?」

 脇腹をつつくと、すかさず叩かれる。

「盛った犬みたいな言い方なやめろ、うちはペット禁止なんだ。節度のない発言ばかりするなら入室させないからな!」

「ご、ごめん、怒るなよ。ちょっとはしゃいじゃっただけなのに〜」

 自分で自分の頭を撫でる。ふん! と憤る道永の鼻息で前髪が捲れそう。

「君は圧倒的に危機感が足らない。その場の感情に支配されて後先を考えられない。行き当たりばったりでーー」

 お説教が始まり耳を塞ぐ。歩幅を調整し距離をとった。道永も振り向いてまで叱らないはずだ。
 なんとなく月を見上げてみた。電線が張り巡らされた空は楽譜、星は音符だ。

「〜♪」

 母さんが好きな歌を口ずさむ。

 俺があの男の本性を暴かなければ、母さんは騙された振りをし続けられる。ヘラヘラ笑って俺みたいに。