家に帰ると、母さんが入れ違いで出掛ける所だった。

「おかえりなさい。お鍋にカレーがあるから温めて食べてね」

 看護師である母さんは家計を支える為、夜勤もやっている。物心ついた頃から2人で暮らし、俺は父さんの顔を知らない。
 父親の顔が分からなくても困った事がなく、母さん似であるのを周りは喜ぶから背景は察せる。

「サツキ? どうかした? また学校で何かあったの?」

「何にもねぇよ。仕事遅れるぞ」

「え、えぇ、それならいいんだけど。明日はサツキの誕生日でしょう? お祝い出来なくてごめんなさいね?」

「誕生日のお祝い? ガキじゃないんだから」

 追い払うよう送り出して家へ入る。ここ最近、母さんの顔がまともにみられない。思春期という言葉で誤魔化せないくらい避けてしまう。
 その原因が履くスニーカーを蹴り飛ばすと部屋へ直行した。

「帰ってきたの?」

 ドアノブを回す前に呼び止められる。ギクリと震えた心を勘付かれたくないので、慎重に振り向く。

「お母さん、今日は夜勤だってさ。カレー食う?」

 そいつは我が物顔でシャワーを浴びた後、上半身裸のままビールを煽る。名前は知らない、聞きたくもない。母さんの彼氏である。

「いらない」

「えー、せっかく作ってくれたんだよ? 一緒に食べようよ」