「この駄犬が!!」

 スコーンッと乾いた音と一緒に道永の手が頭上を通過する。俺は衝撃で後ろへ崩れた。

「君が谷をそうして甘やかしたのがいけない! 親が離婚して辛く寂しかったかもしれないが、だからといって何をしても許される訳じゃないぞ!」

 し、か、も、一言ずつ区切り、道永は顔を近付けてきた。

「女の真似事をして励ましただと?」

「田中や林の女装は見られたものじゃない。年上のお姉さんも毎回は遊んでくれないし、そうなると俺が適任で」

「一体、君の貞操観念はどうなってる?」

「ていそう? かんねん?」

 眉間を揉むのは癖に違いない。目を擦り、襟足を掻く。まるで俺の話にアレルギー反応を起こしたみたい。

「もー、そんなに怒らなくてもいいじゃん」

「怒ってない、呆れている」

「じゃあ、俺の事なんて見捨てれば? 俺のツケが倍になろうと道永に関係ないよ」

 真剣に叱ってくれているのは分かっている。色々な奴と喧嘩し殴り合ったから、道永の拳が暴力じゃないのも分かる。