それからあいつは、驚いたことにちょいちょいと俺に話しかけでくるようになった。
 きっかけは、俺が隠し持ってた詩集。詩を読むのが好きだなんで、絶対にバレたくない。メルヘンでイタいやつと思われたくなかった。
「ねえ!詩好きなの?」
「え?いや、別に……」
「それ、ランボーでしょ?オレもおんなじの持ってる」
 ゴソゴソとカバンの奥から引っ張り出してきたのは、おんなじ本。
「いいよね、詩って。極限まで削られて、濃縮された言葉が、煮詰められたジャムみたいで」
 ふふ、と大切な秘密を明かすように、あいつは笑った。
――ますますあいつのことが、いろいろ知りたくなった。
 これは恋なのだろうか。愛なのだろうか。それとももっとよこしまなものか。  
 わからん。わからないから深みにはまっていく。この心は沈むのか、浮かぶのか。
 声が聞けたら、次は触れたい。欲望はどんどん深くなって、大きくなって。それと比例するように、夢にあいつが出てこなくなった。寂しい。でも学校で短く言葉を交わすときに、そんな寂しさは吹き飛んでしまう。