毎晩あいつの夢を見るのは、いつからだろう。
 あいつは同じクラスの前の席。いつも授業をまじめに聞いて、ぴん、と背筋を伸ばしている。短い髪からのぞく白いうなじの耳のそばに、てん、てん、とふたつのほくろが並んでいる。
 あいつは社交的で、友達が多い。ぼっちの俺とはたいした違いだ。
 接点なんか、同じクラス。それひとつしかなかったのに。

 毎晩あいつは夢に出てきて、俺の横で何やら楽しそうに話すんだ。その笑顔が嬉しくて、俺はウンウンと話を聞くだけで。

 朝、目が覚めるとあいつが話した楽しそうな話の内容は、綺麗さっぱり忘れているのも自分に腹も立つ。

 毎日夢に出てくるから、気がつけば意識するようになってしまう。あいつは男で俺も男なのに。なんだかどきどきしてくるんだ。

 今日も夢で逢えたら、明日挨拶してみようか。
 それとも夢の中で、何か喋ってみようか。

 正しいことはなんだってひとつじゃないから、このどきどきもきっと正しい。毎晩夢に出すくらい、俺はきっとあいつが好きで。

 夢の中なら言える気がする。でも現実で言わなきゃなんにも始まらない。
 わかってる。わかってるんだけど。その一歩、踏み出せる日は来んのかな。

 今夜もまた、あいつの夢を見るだろう。いや、ぜひ見たい。

 まずはお友達から、なんて陳腐なセリフを言ってみよう。夢の中なら言えそうだから。

 いつかきっと、本当のあいつの横に俺がいるために。そしたらきっと、あの、うなじのふたつ並んだほくろにくちづけするんだ。

 俺のモンだと言うあかしに。