りんご飴を切る理由

 遊ぶにはちょうどいい天気だった。気温は低いけど日差しがあったかい。
 僕は今日、先輩とデートをするために近くの中心市街地に向かっていた。

 前は動画撮影のバイトの名目できたんだよなぁ。
 今日は撮影もなにもない。こういう形でふたりで出かけるの初めてなので、変に緊張する。
 駅を出ると、すでに改札口の向こうに先輩が見える。

「海斗」

 呼ばなくても気付いていますって。
 先輩、ここを歩いている誰よりも目立ってますから。

「待ちましたか?」
「今きたとこ。今日、珍しいマフラーしてるじゃん」
「あ、これ蓮からクリスマスプレゼントでもらいました」
「なに、聞いてないぞ⁉ あいつ、まさか海斗に……」
「なにもないですって」

 この人、意外と嫉妬深いというか独占欲強いというか心配性というか過保護というか。
 見た目からは全然わからないそういうところも、好きだ。

「今日行きたいところあるんですけど、いいですか?」
「もちろん。何の店?」
「りんご飴専門店がこっちにもできたそうなんです。なんだか気になりません?」
「白雪でりんご飴大量に見てるのに気になるのかよ」

 それとこれとは話は別だ。それなりにバイト愛だってあるし、なによりいい口実になるじゃないか。
 駅から少し歩く。ほかのカップルみたいに手を繋ぐことはできない。
 カップルを見る僕が羨ましそうに見えたのか、先輩はニヤニヤとしている。

「はいはい、俺の家帰ったら手繋ごうな」
「ちょ……なに言ってるんですか」

 勘が良くてうざい。ふざけ合っていたらお目当ての店に着いた。
 りんご飴専門店〝プリンセス〟男ふたりにはハードルが高い店名だ。
 店に入る。内装はポップで女子中高生が好きな要素が詰められている。
 フレーバーは18種類。色とりどりに並べられたショーケースは、まるで宝石箱だ。
 その中で、真っ白に光るフレーバーを見つけた。

「これください」

 うちでは取り扱っていないヨーグルトテイストのりんご飴らしい。
 名前はホワイトスノー。うちの店長よりは名前のセンスがあるな。
 先輩が財布を出そうとしたので「僕の買い物なので」と伝えて止める。

「ありがとうございます! カットでのご提供も可能ですが、いかがいたしましょうか?」
「カットでお願いします」
「海斗、カットは追加料金あるぞ」
「あ、先輩も庶民の感覚わかってきました? でもこれでいいんです」

 僕は650円を払い、りんご飴が切られていく音に耳を澄ます。飴は薄めのコーティングだな。
 きっと食べているときは、パリパリと心地いいだろう。

 りんご飴専門店にしては珍しく、テラス席が置いてある。
 ホワイトスノーを受け取ると、僕らはそこに座った。

「海斗、なんでカットにしたんだ?」

 ド貧乏でドケチの僕が追加料金を許すのが信じられないのか、先輩は怪訝そうな顔をしている。

「ふたりで食べたかったからですよ。カットしてもらった方が一緒に食べやすいじゃないですか」

 カップを開けて、りんご飴を食べる。想像通りのパリパリとした触感。
 ヨーグルトの酸味と林檎の甘味の相性は抜群だ。
 先輩にも差し出すと、先輩は僕の差し出したりんご飴を口で受け取った。

「……うまい」
「ね、僕これ好きです」

 ふたりで一緒に食べること、それは追加料金以上の価値がある。だから払っても惜しくない。
 

 僕も、先輩も、たくさんの問題を抱えている。
 だからといって不幸なだけじゃない。
 幸せだって同じように存在している。
 幸せ、不幸、人生はどちらか一方だけではないはずだから。
 今、目の前にある幸せを、見逃したりしない。

「先輩」
「なんだ?」
「好きですよ」
「俺は大好きだけどな」

 どこか遠くで、聞き慣れた鈴の音が聴こえた。
 春はもうすぐ、そばに来ている。