[Jun、今日もかっこいい!]
[クリスマスにJunをLIVEで見れるなんて最高]
[最近、LIVE配信増やしてくれて嬉しい]
[こんばんは、いつも見てます]
「いらっしゃい。みんなLIVEに来てくれてありがとう」
視聴者の数は……現在約850人。夜になるにつれて視聴者は増えてきている。
クリスマス当日と言ってもひとりで過ごす人も多いよな。なかには家族で見てくれてる人もいるらしいけど。
ありがたいことだ。画面の向こうの視聴者に手を振ると、たくさんの♡が画面上に現れる。
クロックロックでは視聴者がタップすると配信の画面上にも♡が出現するようになっている。
♡の数で今の自分のアクションやコメントが喜ばれたかどうかの目安になるので、ありがたい。
クロックロックには、ショート動画の投稿のほかにLIVE配信機能がある。
リアルタイムで視聴者とコミュニケーションが取れるので、ファンを地道に増やしていくことができる。
ただ、コメントへのレスポンスをゆっくり考えている時間もないし、言動ひとつで炎上だってするリスクもある。なので定期的な配信以外は避けていた。だけど、最近は動画を見ずにLIVE配信だけを楽しんでいるユーザーも増えてきているようなので、仕方なく回数を増やすようにした。
クリスマスということで〝プレゼント〟も引っ切り無しに飛んでくる。配信機能に付属する機能で、所謂投げ銭だ。
[いつも動画で癒されてます♪]
Seikaさんが豪華なクリスマスケーキをプレゼントしました。
「ぅお! Seikaさん、クリスマスケーキありがとうございます!」
クリスマスケーキは現金で換算すると10,000円ほどするプレゼントアイテム。
クロックロックの運営手数料を引いても俺の手元には5,000円が入るようになっている。
そう言えば一度、白雪が「気になるんですけど、僕にバイト代を渡しても赤字にならないんですか?」と聞いてきたことがあった。別に多少赤字になったって気にしないのだが、正直そんな心配は必要ない。
ショート動画の視聴でも広告収益が発生するし、たまにするLIVE配信だけでも白雪に払うバイト代はゆうに超える。それに、俺は金を目的に配信しているわけじゃないからなぁ。でも、プレゼントをもらえるとLIVEのランキングが上がって多くの人の目に触れやすくなる。そういう意味で、プレゼントはありがたい。なんてことを考えながらも、コメントを返したり視聴者からのプレゼントにお礼を言うのは忘れない。どれだけの数のフォロワーがいても、いい加減な対応をすればすぐにファンは離れる。今までの活動で、俺はすでにそれを学んでいる。
[クリスマスプレゼントに名前呼んでくれませんか?]
美咲さんがサンタの靴下をプレゼントしました。
「美咲さん、いつも見てくれてるよね。メリークリスマス。プレゼントありがとう」
[今日配信を見るのを楽しみに一日頑張ったよ~]
リオンさんがりんご飴をプレゼントしました。
「リオンさん、今日も一日お疲れ様。りんご飴ありがとう♪」
りんご飴、白雪は今バイト中か。サンタのコスプレとかしてるんだろうか。
視聴者もプレゼントで白雪のことを思い出したのか、コメントでいくつか質問が飛ぶ。
[今日は白雪いないの?]
[クリスマスはデートしなきゃww]
[Junに彼女はできてほしくないけど、白雪くんなら許す]
俺の気持ちも知らないで、好き勝手に盛り上がってくれる。そういう狙いが全くなかったわけじゃないけど、本当に白雪を好きになってしまった以上、複雑な気持ちになるのは事実だ。こういうコメントは、否定も肯定もするべきではない。否定すればセクシャルマイノリティのファンを傷付ける可能性がある。俺には男のファンも多いし、もちろんその中にはゲイの人だっている。少しでも肯定すれば変に話題になって、白雪にも迷惑をかけてしまうだろう。
「あはは、たぶんバイトで忙しくしてますよ」
自然にコメントに返答しているように見せて、実際にどのコメントを読むかは選んでいる。
たくさんコメントがあるのはこういうとき便利だが、瞬時に判断する能力と演技力が必要なので、配信が終わるとどっと疲れるのだ。
時計に目を遣ると、もう20時ごろだった。昨日も00時まで視聴者と一緒にクリスマスを迎える企画配信をしていたので、今日はこれくらいにしておこう。予定もあるし。
「もうこんな時間か。寂しいんだけどそろそろお風呂入ったりするから今日はここまでにするよ。皆ありがとう! うん。もちろん。また配信するからさ、見に来てくれる人はクロックロック、インスタ、どっちもフォローしてくれると嬉しい! それじゃあ、おやすみ。Junでした」
視聴者に何度もお礼を言って名残惜しそうに配信を切る。今日の配信でフォロワーも100以上は増えている。よしよし。スマホを放り投げて、俺は横に置いてあったノートパソコンを開く。直近の動画のエンゲージメントを確認しながら、LIVE配信でどれだけの視聴者が反応したかを記録していく。好きにやってファン作りをするインフルエンサーもいるが、俺はそういうタイプではない。好きにやっているように見せて、目的のために一番いい方法を選択している。ずるい男なのかもしれないな。
一通りの作業を終えて、ふと途中で止めていた動画編集ソフトの画面を開く。この前撮った、白雪と遊んだときの動画だ。クリスマスイルミネーションに目を輝かせている白雪。こちらに気づいて、恥ずかしそうにしている白雪。……っとこれはやっぱり動画に入れないでおこう。可愛すぎる。
好きになってなかったら、きっと使っていた。自分のために。
白雪を好きになってなかったら、今日も00時まで配信してた。
父親に復讐するためになんだってするつもりだったのに。
これは俺の意思が弱いのかと、迷ったこともあった。
だけどさ、好きって気持ちなんて止めらんないじゃん。どんな壁があっても、境遇をどれだけ呪っても。
だから俺は俺のできることをする。復讐を抱きながらでも、白雪と一緒にいたい。
あいつさえ、迷惑じゃなければだけど……。
「ま、すでにふられてるようなもんですけどね」
俺はコートを羽織ってから、昨日買っておいたプレゼントを手に取る。
すでにアプリでタクシーの手配は済ませてあった。
白雪が、これからのクリスマスをワクワクできるようにしてやる。
全身鏡の前で笑ってみる。うん、今日もイケメン。
イケメンだからと言って、恋がうまくいくわけではないのが辛いとこだな。
白雪のバイト先に着く。クリスマスで閉店も間近だからか、もう客足は落ち着いているようだった。
これなら入っても大丈夫だろう。ガラスの反射でもう一度自分の姿を確認してから、店に入る。
そこには、トナカイの耳をつけている白雪がいた。
あまりの可愛さに一瞬眩暈がするが、呆けた顔を見せるわけにはいかない。
「いらっしゃいませ……って先輩っ⁉」
「よ。おすすめのりんご飴ください」
「なんでここに……って、仕事中だった。おすすめは抹茶ベリーベリーツリーです」
トナカイの姿をしているのか恥ずかしいのか、目を逸らす仕草も可愛い。
「おすすめの理由教えてもらっていいですか?」
「余ってるからですよ。変な絡み方しないでください」
「はいはい、じゃあそれください。なんかショートケーキのも一緒に」
「……カットしましょうか?」
「お願いします」
白雪はショーケースからりんご飴を取り出す。そのとき、前にも見た店長が奥から出てきた。
「あ、Junくん! この前は宣伝みたいなことしてもらっちゃって、本当にありがとうね! いつも動画見てるわよ~!」
「ありがとうございます」
店長は白雪の隣に立つと、全然ひそひそ声になってないボリュームで白雪に話しかけている。
「ほら、せっかく来てもらってるんだからもうあがる準備して帰ってもいいわよ。カットは私がするから」
「ありがとうございます。でも、カットは自分がしたいので」
「……そう? ならレジしちゃうわね」
白雪の細い指が緑色のりんご飴に添えられている。童話に出てくる白雪姫も、白くて細い指をしているんだろうか。
ちゃんと見たことないからわからないけど。
会計を済ませた俺はそのまま店で待たせてもらい、白雪が出てくるのを待った。
「なんか帰るのを急かしたみたいになって悪かったな」
「いえ。もうあがる時間だったので」
店を出て、駐輪場の方まで一緒に歩く。
店の裏側、人気のない駐輪場を蛍光灯が照らしていた。
「で、なんで今日は来てくれたんですか?」
「りんご飴を買いに……てのは冗談。渡したいものがあったから」
そう言って、俺は白雪にクリスマスプレゼントを渡した。
「動画の企画か何かですか?」
「なわけないだろ。どこにもスマホもカメラもない」
白雪はそれを恭しく受けとる。
「……ありがとうございます。こういうのって、今中身を見てもいいものなんですか?」
「もちろん。開けてみて」
白雪は割れものでも扱うかのように慎重にラッピングをほどく。
「わ……」
プレゼントに選んだのはレザーのペンケース。ワンポイントに、猫のマークが型押しされている。
白雪が猫を好きなのは知っていた。
猫は飼っているってのもあるけど、一緒に出掛けたときに猫のグッズをよく見ていたから。
レザーなら使えば使うほど味がでる。長く使ってもらえるものを贈りたいと思って、これを選んだ。
「どう? 嬉しい?」
「はい。かっこいいし、可愛いです。すごく嬉しい」
白雪は今まで見たことのない顔をしていた。
寒さのせいか、頬は桃色に染まっている。
「初めてです。こんな素敵なプレゼントもらったの。大切にします」
「そか、喜んでもらえて嬉しい」
やばい。俺、めっちゃにやけてないだろうか。怪しい感じで笑っていたらいやだな。
でも想像以上に喜んでもらえたのが嬉しくて、胸がきゅんきゅんしてしまっている。
白雪はまた慎重にペンケースを袋に戻す。そして、申し訳なさそうにして話し始めた。
「でも……すみません、僕先輩にクリスマスプレゼント用意してません」
「そんなのいいって」
「でも……!」
「どうしてもって言うなら、キスでもしてもらおうかな?」
なんて、ちょっと茶化してみたりして。俺なりの照れ隠しのつもりだった。
「――いいですよ。それがプレゼントになるなら」
「は、はぁ⁉ 白雪、キスはなー、好きな人とするもなんだぞ⁉」
こいつ、こんな冗談言うやつじゃないのに……と思って顔を合わせた瞬間、白雪がマジの顔をしているのに気づいた。
「先輩が嫌なら、いいです」
えー、マジか。マジ? そういうこと? ほんとにか? おいおい、冷静になれ。
「――嫌なわけないだろ」
俺は白雪をぐっと抱き寄せる。強引にしちゃいけない。心臓がどんどんと早くなって、破裂してしまいそうだった。白雪の顔を見つめて、できるだけ優しく唇を重ねる。
「……なぁ、俺、白雪のこと好きだ」
「……はい」
「白雪は?」
「なにがですか?」
「わかってんだろ。俺のこと、好き?」
「……好きです」
切れかけた蛍光灯が明滅する。
暗闇になると、今見ている現実が夢となって消えてしまいそうで怖くなる。
これが夢じゃないことを願いながら、もう一度唇を重ねた。
[クリスマスにJunをLIVEで見れるなんて最高]
[最近、LIVE配信増やしてくれて嬉しい]
[こんばんは、いつも見てます]
「いらっしゃい。みんなLIVEに来てくれてありがとう」
視聴者の数は……現在約850人。夜になるにつれて視聴者は増えてきている。
クリスマス当日と言ってもひとりで過ごす人も多いよな。なかには家族で見てくれてる人もいるらしいけど。
ありがたいことだ。画面の向こうの視聴者に手を振ると、たくさんの♡が画面上に現れる。
クロックロックでは視聴者がタップすると配信の画面上にも♡が出現するようになっている。
♡の数で今の自分のアクションやコメントが喜ばれたかどうかの目安になるので、ありがたい。
クロックロックには、ショート動画の投稿のほかにLIVE配信機能がある。
リアルタイムで視聴者とコミュニケーションが取れるので、ファンを地道に増やしていくことができる。
ただ、コメントへのレスポンスをゆっくり考えている時間もないし、言動ひとつで炎上だってするリスクもある。なので定期的な配信以外は避けていた。だけど、最近は動画を見ずにLIVE配信だけを楽しんでいるユーザーも増えてきているようなので、仕方なく回数を増やすようにした。
クリスマスということで〝プレゼント〟も引っ切り無しに飛んでくる。配信機能に付属する機能で、所謂投げ銭だ。
[いつも動画で癒されてます♪]
Seikaさんが豪華なクリスマスケーキをプレゼントしました。
「ぅお! Seikaさん、クリスマスケーキありがとうございます!」
クリスマスケーキは現金で換算すると10,000円ほどするプレゼントアイテム。
クロックロックの運営手数料を引いても俺の手元には5,000円が入るようになっている。
そう言えば一度、白雪が「気になるんですけど、僕にバイト代を渡しても赤字にならないんですか?」と聞いてきたことがあった。別に多少赤字になったって気にしないのだが、正直そんな心配は必要ない。
ショート動画の視聴でも広告収益が発生するし、たまにするLIVE配信だけでも白雪に払うバイト代はゆうに超える。それに、俺は金を目的に配信しているわけじゃないからなぁ。でも、プレゼントをもらえるとLIVEのランキングが上がって多くの人の目に触れやすくなる。そういう意味で、プレゼントはありがたい。なんてことを考えながらも、コメントを返したり視聴者からのプレゼントにお礼を言うのは忘れない。どれだけの数のフォロワーがいても、いい加減な対応をすればすぐにファンは離れる。今までの活動で、俺はすでにそれを学んでいる。
[クリスマスプレゼントに名前呼んでくれませんか?]
美咲さんがサンタの靴下をプレゼントしました。
「美咲さん、いつも見てくれてるよね。メリークリスマス。プレゼントありがとう」
[今日配信を見るのを楽しみに一日頑張ったよ~]
リオンさんがりんご飴をプレゼントしました。
「リオンさん、今日も一日お疲れ様。りんご飴ありがとう♪」
りんご飴、白雪は今バイト中か。サンタのコスプレとかしてるんだろうか。
視聴者もプレゼントで白雪のことを思い出したのか、コメントでいくつか質問が飛ぶ。
[今日は白雪いないの?]
[クリスマスはデートしなきゃww]
[Junに彼女はできてほしくないけど、白雪くんなら許す]
俺の気持ちも知らないで、好き勝手に盛り上がってくれる。そういう狙いが全くなかったわけじゃないけど、本当に白雪を好きになってしまった以上、複雑な気持ちになるのは事実だ。こういうコメントは、否定も肯定もするべきではない。否定すればセクシャルマイノリティのファンを傷付ける可能性がある。俺には男のファンも多いし、もちろんその中にはゲイの人だっている。少しでも肯定すれば変に話題になって、白雪にも迷惑をかけてしまうだろう。
「あはは、たぶんバイトで忙しくしてますよ」
自然にコメントに返答しているように見せて、実際にどのコメントを読むかは選んでいる。
たくさんコメントがあるのはこういうとき便利だが、瞬時に判断する能力と演技力が必要なので、配信が終わるとどっと疲れるのだ。
時計に目を遣ると、もう20時ごろだった。昨日も00時まで視聴者と一緒にクリスマスを迎える企画配信をしていたので、今日はこれくらいにしておこう。予定もあるし。
「もうこんな時間か。寂しいんだけどそろそろお風呂入ったりするから今日はここまでにするよ。皆ありがとう! うん。もちろん。また配信するからさ、見に来てくれる人はクロックロック、インスタ、どっちもフォローしてくれると嬉しい! それじゃあ、おやすみ。Junでした」
視聴者に何度もお礼を言って名残惜しそうに配信を切る。今日の配信でフォロワーも100以上は増えている。よしよし。スマホを放り投げて、俺は横に置いてあったノートパソコンを開く。直近の動画のエンゲージメントを確認しながら、LIVE配信でどれだけの視聴者が反応したかを記録していく。好きにやってファン作りをするインフルエンサーもいるが、俺はそういうタイプではない。好きにやっているように見せて、目的のために一番いい方法を選択している。ずるい男なのかもしれないな。
一通りの作業を終えて、ふと途中で止めていた動画編集ソフトの画面を開く。この前撮った、白雪と遊んだときの動画だ。クリスマスイルミネーションに目を輝かせている白雪。こちらに気づいて、恥ずかしそうにしている白雪。……っとこれはやっぱり動画に入れないでおこう。可愛すぎる。
好きになってなかったら、きっと使っていた。自分のために。
白雪を好きになってなかったら、今日も00時まで配信してた。
父親に復讐するためになんだってするつもりだったのに。
これは俺の意思が弱いのかと、迷ったこともあった。
だけどさ、好きって気持ちなんて止めらんないじゃん。どんな壁があっても、境遇をどれだけ呪っても。
だから俺は俺のできることをする。復讐を抱きながらでも、白雪と一緒にいたい。
あいつさえ、迷惑じゃなければだけど……。
「ま、すでにふられてるようなもんですけどね」
俺はコートを羽織ってから、昨日買っておいたプレゼントを手に取る。
すでにアプリでタクシーの手配は済ませてあった。
白雪が、これからのクリスマスをワクワクできるようにしてやる。
全身鏡の前で笑ってみる。うん、今日もイケメン。
イケメンだからと言って、恋がうまくいくわけではないのが辛いとこだな。
白雪のバイト先に着く。クリスマスで閉店も間近だからか、もう客足は落ち着いているようだった。
これなら入っても大丈夫だろう。ガラスの反射でもう一度自分の姿を確認してから、店に入る。
そこには、トナカイの耳をつけている白雪がいた。
あまりの可愛さに一瞬眩暈がするが、呆けた顔を見せるわけにはいかない。
「いらっしゃいませ……って先輩っ⁉」
「よ。おすすめのりんご飴ください」
「なんでここに……って、仕事中だった。おすすめは抹茶ベリーベリーツリーです」
トナカイの姿をしているのか恥ずかしいのか、目を逸らす仕草も可愛い。
「おすすめの理由教えてもらっていいですか?」
「余ってるからですよ。変な絡み方しないでください」
「はいはい、じゃあそれください。なんかショートケーキのも一緒に」
「……カットしましょうか?」
「お願いします」
白雪はショーケースからりんご飴を取り出す。そのとき、前にも見た店長が奥から出てきた。
「あ、Junくん! この前は宣伝みたいなことしてもらっちゃって、本当にありがとうね! いつも動画見てるわよ~!」
「ありがとうございます」
店長は白雪の隣に立つと、全然ひそひそ声になってないボリュームで白雪に話しかけている。
「ほら、せっかく来てもらってるんだからもうあがる準備して帰ってもいいわよ。カットは私がするから」
「ありがとうございます。でも、カットは自分がしたいので」
「……そう? ならレジしちゃうわね」
白雪の細い指が緑色のりんご飴に添えられている。童話に出てくる白雪姫も、白くて細い指をしているんだろうか。
ちゃんと見たことないからわからないけど。
会計を済ませた俺はそのまま店で待たせてもらい、白雪が出てくるのを待った。
「なんか帰るのを急かしたみたいになって悪かったな」
「いえ。もうあがる時間だったので」
店を出て、駐輪場の方まで一緒に歩く。
店の裏側、人気のない駐輪場を蛍光灯が照らしていた。
「で、なんで今日は来てくれたんですか?」
「りんご飴を買いに……てのは冗談。渡したいものがあったから」
そう言って、俺は白雪にクリスマスプレゼントを渡した。
「動画の企画か何かですか?」
「なわけないだろ。どこにもスマホもカメラもない」
白雪はそれを恭しく受けとる。
「……ありがとうございます。こういうのって、今中身を見てもいいものなんですか?」
「もちろん。開けてみて」
白雪は割れものでも扱うかのように慎重にラッピングをほどく。
「わ……」
プレゼントに選んだのはレザーのペンケース。ワンポイントに、猫のマークが型押しされている。
白雪が猫を好きなのは知っていた。
猫は飼っているってのもあるけど、一緒に出掛けたときに猫のグッズをよく見ていたから。
レザーなら使えば使うほど味がでる。長く使ってもらえるものを贈りたいと思って、これを選んだ。
「どう? 嬉しい?」
「はい。かっこいいし、可愛いです。すごく嬉しい」
白雪は今まで見たことのない顔をしていた。
寒さのせいか、頬は桃色に染まっている。
「初めてです。こんな素敵なプレゼントもらったの。大切にします」
「そか、喜んでもらえて嬉しい」
やばい。俺、めっちゃにやけてないだろうか。怪しい感じで笑っていたらいやだな。
でも想像以上に喜んでもらえたのが嬉しくて、胸がきゅんきゅんしてしまっている。
白雪はまた慎重にペンケースを袋に戻す。そして、申し訳なさそうにして話し始めた。
「でも……すみません、僕先輩にクリスマスプレゼント用意してません」
「そんなのいいって」
「でも……!」
「どうしてもって言うなら、キスでもしてもらおうかな?」
なんて、ちょっと茶化してみたりして。俺なりの照れ隠しのつもりだった。
「――いいですよ。それがプレゼントになるなら」
「は、はぁ⁉ 白雪、キスはなー、好きな人とするもなんだぞ⁉」
こいつ、こんな冗談言うやつじゃないのに……と思って顔を合わせた瞬間、白雪がマジの顔をしているのに気づいた。
「先輩が嫌なら、いいです」
えー、マジか。マジ? そういうこと? ほんとにか? おいおい、冷静になれ。
「――嫌なわけないだろ」
俺は白雪をぐっと抱き寄せる。強引にしちゃいけない。心臓がどんどんと早くなって、破裂してしまいそうだった。白雪の顔を見つめて、できるだけ優しく唇を重ねる。
「……なぁ、俺、白雪のこと好きだ」
「……はい」
「白雪は?」
「なにがですか?」
「わかってんだろ。俺のこと、好き?」
「……好きです」
切れかけた蛍光灯が明滅する。
暗闇になると、今見ている現実が夢となって消えてしまいそうで怖くなる。
これが夢じゃないことを願いながら、もう一度唇を重ねた。