「オレ、抜ける! 紐ほどけた!」

 シュート練習をしてたコートから、彰くんが出てきて。
 一通りの雑用を終えて、今はコートを見守りながら立っていた私の隣に座った。

「急に両方の紐、解けた」

 ははっ、と楽しそうに笑って、私を見上げる彰くん。
 思わず、どきっとしてしまう位、カッコいい。……ん、可愛い? かな。

 とんとん、と踵を床に押して履き直してから、紐を結んでいく。

 ……指、綺麗。

 男の子っぽいけど、すらっとしてて。
 この手が、綺麗な三ポイントを決めるの、ほんとに素敵すぎる。

 ついつい、紐を結ぶ彰くんの手に見入ってると。

「マネージャーって、バスケ好き?」

 不意に彰くんが私を見上げて、そう聞いてきた。

「え。 うん、大好き」

 手を見て幸せに浸っていた私。
 内心めっちゃ焦ったけれど、頑張ってすぐ答えると。

「はは、そーだと思った。 なんか、見てると分かる」

 鮮やかな、笑顔。
 ほんと、その笑顔を向けられるだけで、今日一日、どんな雑用も頑張れる気がする……。

「女バス、入らなくて良かったの?」

 あら、急に核心ついてきた。
 そういえば、そこら辺の話は、敢えてしたことなかったかも。
 
「中学の時は、バスケやってたんだけどね」
「あ、そうなんだ」

「うん……好きなのと、動けるのは、違うんだよね……てことがよく分かっちゃって」
「……ふーん……?」

 ちょっと手を休めて、彰くんが私を見てくる。

「高校では応援する立場になるって決めたの。でも女バスは、見てるとやりたくなっちゃうかなーとか、ちょっと複雑で……だから、男子バスケのマネージャーになったんだけど……」

 だけど……。
 えーと、ここからなんて言おう。
 運動できないから、諦めたけど、女バスだと未練があるから、男子のマネージャー……

 あ、なんか、正直に言いすぎたかも。
 彰くんも、なんて言おうか、困るよね。

 どうしよう。うーん。

「――そっか」

 一度私から目を逸らして、きゅ、と紐をしめる。

 ……そ、そうなの。
 ごめんね、なんか、あんまり楽しい話じゃなくて……

 とでも言おうかどうしようか、ほんとに困っていた時。

 すぐに、また私を見上げて。
 まっすぐに見つめたまま、とびきりの、笑顔で。


「マネージャーいてくれて、皆もすごい助かってるから。こっち来てくれて良かった」

「……え」


 うわー。
 ――――不意打ち。

 思わず、かぁっと赤くなってしまった。


「すっごい照れる……けど……ありがと」
「何で照れるの」

 クスクス笑いながら彰くんは言って、もう一方の靴紐を結び直している。


「つか、ありがとうはこっちのセリフだしね」

 また追い打ちで、そんな言葉をかけてきてくれる。

 彰くんて。
 ……ほんと、人たらしだなあ。
 彰くんがめちゃくちゃモテて人気があるの、ほんとよく分かる。

 そんな素敵な笑顔、私に向けちゃってるとさ。
 ……絶対良くないと思うんだよね。うん。

 そんなことを思いながら、ふと、瑛斗くんの姿を探してしまう。