良かった良かった、と思って、ほっとした瞬間。

 つる、とバケツが手から滑り落ちそうになって、あわわわ、やばい、と暴れてたら、バケツとともに、私まで、下にあった段差のせいもあって、なぜか転んだ。

「いた……」
 
 バケツは大きな音を立てて、転がるし。
 ……最悪。

「え、なに?」

 びっくりしたような顔で現れたのは、彰くん。次いで、瑛斗くん。
 バケツとともにへたり込んでる私を見て、二人が、ぷ、と笑った。

「何してんの? マネージャー、大丈夫?」
 言いながら、手を貸してくれるのは彰くん。

「……漫画みてえなことしてんなよ」 
 そう言いながらも、バケツを拾ってくれてるのは、瑛斗くん。

「何 この段差でこけちゃったの?」

 クスクス笑う彰くん。

「うん……」

 そう答えるしかない。

「水入れて持ってけばいーの?」
「うん」

 答えると、瑛斗くんが水を入れに行ってくれる。

「あ、私やるよ」
「大丈夫だよ、瑛斗がやってくれてるし」

 そう言って私を止めてから、またクスクス笑って、彰くんが瑛斗くんの姿を見てる。ふ、と緩んだ瞳を近くで見てしまって、どき、とする。


「水、こんくらいでいい?」

 瑛斗くんが見せてくれる。頷くと、瑛斗くんが先を歩き出して、「戻ろうぜ」と言いながら、振り返る。私を見た後、隣の彰くんに目を向ける。

 彰くんが、私の隣で、ふわ、と笑う。


 さっきまで、全然笑わなかったのに。
 瑛斗くんの顔も、見なかった位だったのに。


 ――――……彰くん、ほんとに、可愛いー。


 体育館につくと、瑛斗くんがバケツを渡してくれる。


「ありがとう」

 お礼を言うと、瑛斗くんは、超カッコイイお顔で、「ん」と笑って、彰くんと一緒に、コートに戻っていく。

 もう、二人とも、いつも通り。
 なんとなくその姿を見送ってたら。

 彰くんが、瑛斗くんに何かを言って、そしたら、瑛斗くんは、マジマジと彰くんを見た。
 瑛斗くんはその大きな手で、彰くんの頭を、くしゃくしゃ撫でた。

 なんて言ったんだろ、彰くん。
 ――――……わかんないけど、でも二人とも、嬉しそう。

 よかった、元どおり。
 ……というか。


 少し、近づいたのかな?



◇ ◇ ◇ ◇


 後日。
 美香と話して、事情が分かった。


 美香と瑛斗くんが、CDショップの同じ歌手のコーナーで会ったらしい。

 最新のがすぐ欲しいのにネットでも店でも売り切れ、と言ってる瑛斗くんの話を、たまたま聞いた美香が、音楽関係の仕事をしてるお兄さんに頼むことになったみたいで。 瑛斗くんと仲良くなれるチャンスだと、お兄さんに頼み込んで手に入れてもらって、これを機に連絡先も聞いて、さあこれから、と思った時。

 ごめん、オレ、好きな奴がいるから、デートとかは、無理だから。 
 と、断られたそう。

 美香は嘆いてたけど。
 美香はめちゃ可愛い子だけど。
 ……かわいそうだけど、たぶん、勝てないなー。


 彰くん、昨日お誕生日だった。
 瑛斗くんが、帰り道で、彰くんにこっそり何か渡してたけど。

 きっと、それだったんだろうなーと思うと。


 彰くんのあの笑顔には、誰も勝てないだろうなーと思いながら、嘆いてる美香を、慰めた。

 相手が悪かったとしかいえないなー……。


 そこらへんの事情も、きっと話したんだろうなぁ、瑛斗くん。
 彰くん、ニコニコしながら、瑛斗くんを見上げてたし。


 ふふ。
 良かったねー彰くん。




 楽しそうに、クラスの子達と笑ってる彰くんを目に映しつつ。
 微笑んでしまった。