「彰、数字、綺麗に書けよ」
「綺麗じゃん……」
「これ6? 4?」
「6だし……あ、4だった」
「何で4と6が分かんなくなるんだよ」
「あはは、ごめん」

 そんな他愛もない会話なのだけれど。
 ……超、楽しそう。二人。

「マネージャー分かる?」
  瑛斗くんが私に聞いてくれる。

 ……私のことなんて気にせず、二人で話していてほしい。

「えっと……もう少し考えるね」
「おお。偉い。彰、見習え」
「……はい」

 彰くんは一瞬、むっと唇を膨らませたけれど、その後すぐ、素直に返事をしてノートに向かってる。そのノートを、超至近距離から見てる瑛斗くん。

 ……尊い。
 ……って勉強しろ私、て感じだけど。
 でもだって二人とも、なんか、少女漫画から出てきたみたいなんだもん。
 カッコよすぎるよ。ほんとに。

「えいとー、無理ー……」
「マネージャー見習って。自分で考えないと、覚えないだろ」
「……んーでもー……」
「あと一分考えてみな」
「ん……」

 うーんうーんうーん。漫画みたいに、ほんとに唸ってる彰くん。
 なんか可愛い。なんでこの人、こんなに可愛いの。……バスケの時はほんとキラッキラにカッコイイのに。ギャップがたまんないなぁ……。

 ちらっと、そちらを見てしまったら、左手で頭を支えながら、ノートに書きながら悩んでる彰くん。と。頬杖をついたまま、すぐ近くで彰くんのペン先を眺めてる瑛斗くんの唇は、ふ、と微笑んでいる。


 そのあんまりに優しい唇の形と視線に、ドキン、と胸が弾む。
 ていうか、私に向けられたものじゃないのに、何でだろうって思うんだけど、もうなんだろう、これ。見てるこちらが照れちゃうんだよう。

 いやいや落ち着け、私。まださっきから一問も解けてない。あほだと思われるのは、避けたいっ。

 二人を見てぽーーっとなった自分を戒めながら、シャーペンを持ち直す。
 

 ***


 最後の方、懸命にやりすぎて、ちょっと頭痛。
 先に帰るねって言おうとしてたのに、結局一緒に帰ることになって、今三人で歩いている。

「やったとこ、少しは分かった?」
 瑛斗くんが聞いてくる。

「少しどころじゃないよ、すっごく分かりやすかった、ありがとう」

 早口で返したら、瑛斗くんは、ん、と笑った。

「今日はマネージャー居たから、少しスパルタモードが消えてた。また一緒に習おうねっ?」
「はー? オレはいっつも優しいだろうが」
「んー。優しいの定義ってなんだっけ……」
「菩薩みたいだろうが」

 言いながら瑛斗くんは、自分で笑い出してる。

「自分で笑いながら言うなよなー」
 楽しそうに自分も笑いながら、彰くんがツッコんでる。

「なんかさぁ、ずるいと思わない、マネージャー」
「何が?」

 ぷんぷん、という感じの、可愛い膨らみ方で、彰くんが、私に話しかけ来る。

「こんな顔しててさぁ、背ぇ高くてバスケもすごいし、頭もいいとか、ずるいよな。あとすげー脚が長いし! ウエストの位置がおかしいんだもん」
「……お前は何言ってんの」

 呆れたようにツッコんでる瑛斗くんには構わず、彰くんはまた続けてる。

「えーだって、なんか、天は二物を与えないんじゃねえの? 二つどころじゃなくて、不公平」

 もー、とか怒ってるけど。


 彰くんて気づいてないんだろうか。

 怒ってるように見せかけて、もうすっごい褒めているし。
 ……もはや、のろけにしか、私には聞こえてないってことを。

 なんだかちょっとここに居ない方がいい気がしてきた。

「……あ、私、そこ曲がってすぐバス停だから!」
「ああ。気を付けて帰れよ」
「また一緒に補習しようねー」

「うん、ありがとー!」

 手を振って、曲がり角まで足早に抜けた。


 振り返ると、瑛斗くんが何かを言って、彰くんが笑ってるとこ。二人、私に背を向けて、歩き出したところだった。
 ぽんぽん、と瑛斗くんのおっきな手が、彰くんの頭に乗る。

 楽しそうに笑う彰くん。

 心の中で拝みながら、私は、バス停までなんとなくダッシュ。
 足取りはめっっちゃ軽かった、と思う。 




 そんなこんなで、なんだかいろんな意味で頑張って勉強した私。
 二人効果で、数学のテストの中で、過去一番いい点が取れてしまった。