ちょっと用事、と言って、友達とはバイバイした。皆が帰っていくのを見送る。

 ――皆には、放課後の勉強会のことは、内緒。
 彰くんが、あんまり人数が増えると瑛斗に怒られそうだから内緒ね、と私に言ったから。

 テスト期間で部活も委員会も何もないので、皆今日は帰るのがすごく早い。いつもは、部活がない子は、教室に残って話してたりするのだけど、さすがにそういうのも無いみたい。

「お待たせ。向こうまだ人居るから、こっちの教室でやろ」

 そう言いながら、瑛斗くんが教室に入ってきて、空いてる机にカバンを置いた。

「うん。ここでやろ」
 彰くんが言いながら、机をがたがた動かす。

「瑛斗は先生だから、反対側がいい?」
「あー、オレ机いらない。彰とマネージャーが並べよ。オレ、椅子に座って近くがいいし。間に机があるとノート見にくい」
「了解ー」

 いつもは少し離れて置いてある座席を二つくっつけて、彰くんが、これでいい? と笑うと、いいよ、と瑛斗くんも笑う。

「じゃあ先に飲み物買いに行こうぜ」
「ん。マネージャーも行こ」

 瑛斗くんと彰くんにも振り返られて、その二人のキラキラした光景に、ちょっと軽いめまいがする。

 ……私、ここに居ていいのかな、ほんとに。
 ていうか、一生分の運をここで使ってしまってるんじゃないかと思う位、視界にカッコよすぎる二人が居て、もう困る……。

「マネージャー、数学苦手なの?」

 二人に並ぶ気がしなくて、二人の後ろから歩き始めると。
 瑛斗くんが振り返りながら、話しかけてくれる。一緒に彰くんも振り返って、なんとなく、真ん中、開けてくれる。

 うう。優しすぎるんだけど、私、そこに入る勇気が……。

「さっき数学の時間にあてられて、全然できなかったから……彰くんが声かけてくれて……」

 前に入れず、後ろのまま歩いてると、ずっとこっちを見ながら歩いてた二人が、なんだか、クスクス笑い出した。

「何で前、来ないの? このままだと、彰、絶対転ぶけど」
「転ばないって。でも歩きにくい」

 笑いながら、彰くんが、一歩下がって私の隣に。
 瑛斗くんは、立ち止まって待ってて、合わせて歩き出してくれる。

 ななな、何で私、この二人に挟まれて歩いてるのー?
 どういう、ご褒美……?? 実は気づかないうちに、何かすごくいいこと、してたとか??

「ていうか、瑛斗、オレこんなんで転ばないし」
「そう? よくつまずくじゃんか」

「そんなこと――はあるかもしれないけど……」
「ほら。だろ?」

 ……私を挟んで、とてもとても、楽しそうな会話、
 仲良しなんだよねえ、ほんと……。

 私はミルクティー。微糖のを買った。
 ……自販機でジュース買うだけでも、ちょっと緊張するんだけど。バスケの時に近くに居るのとはなんか違う。

 二人と私だけってー。
 誰かぁ、助けて――。
 ……とか言ったらきっと、贅沢って、誰かに蹴られそうな気がする。
 それくらい、贅沢。

「マネージャー、ミルクティーかぁ、何か似合うね」

 彰くんがニコニコ笑う。

「ミルクティーが似合うってどういう意味?」

 瑛斗くんが不思議そうに突っ込んでる。
 瑛斗くんにはいまいち、分からないみたい。

「え、分かんないの? ウソでしょ」
 彰くんが可笑しそうに笑って、瑛斗くんを見る。

「なんか、ミルクティーとかカフェオレって、ほんわかしてそうなイメーじない? マネージャーに合うなあと思っただけなんだけど」

 思っただけ、とか言われても。
 ……なんだか、一生ミルクティーを飲んでようかなと思ってしまう。

「んー? じゃあ逆に何が似合わねえの?」
「ええ? 似合わない?」
 彰くんは面白そうに言って、笑いながら私をじっと見つめる。

「……そうだなあ……あ、分かった」

 もうなんか、一緒に瑛斗くんも私を見るし、何の試練なんだろうと思っていたら、彰くんが笑った。

「二倍の強炭酸、みたいな? キッそうなのは似合わないかなって気がする」

 そう言った彰くんに、瑛斗くんが、ああ、なるほどね、とちょっと納得してるみたい。

「……じゃあ彰には何が似合うんだろうな?」
「んなこと言ったら、瑛斗は……?」

 二人でお互いを見つめあって、何やら考えこんでる。

 ……二人がなんだか楽しそうに見つめあっているここに、私は居ていいんだろうかと、さっきからずっと感じてることを、改めて感じながら。
 そろそろ自販機の前から歩いて教室に向かって、ささっと勉強を済ませて、帰らないと、私の心臓がもたないような気がするんだけど。

「瑛斗は、炭酸て感じ」
「あ、そう? ……んー、彰は、リンゴジュースって感じ」
「なんだよ、それ! って、たまに飲んでる奴じゃん!」
「飲んでるよな」
 彰くんに突っ込まれて、瑛斗くんがクックッと笑ってる。

「そういうことじゃないから!」

 もう、ほんとに、と言いながら彰くんが、ふっと、キラキラの笑顔を私に向けてくる。

「マネージャーはどう思う?」
「え?」

「オレたちに似合う飲み物」

 …………。

 なんかもう、二人には、暑い
 …………なんて、自分でも意味の分からないことを言えるはずもなくて。

「……二人とも、炭酸、かな……」

 辛うじてそう言うと、「えーオレたち、一緒のイメージ?」と彰くんが笑うし、「オレは結局炭酸なわけ?」と瑛斗くんが不思議そう。

 ……ごめんね、もう頭がなんだか回らないの。
 今日一日の宿題にしてくれたら、明日までに考えてくるんだけど……。

 私がぐるぐるしてる間に、もうすっかりその話題は終わったみたいで、二人は仲良さそうに何か話しながら歩き出して、私を振り返る。

「早く行こ」

 彰くんが声をかけてくれるけど。
 ああ、なんか、一歩が大変。