その後、モモちゃんはひとりで帰っていった。私はそのまま研究室に残って、物思いにふける。

『なんで公務員になりたいの?』

 彼女の言葉が頭から離れない。

 なんで。
 考えたこともなかった問いを、今になって考えてみる。

 親の期待に応えるため。
 ひとの役に立てるから。
 周囲が喜んでくれるから。

 考えて絞り出した答えのなかになにひとつ、私の本音は見当たらなかった。

「……本当に、私はつまらない人間ね」


 ***


 翌日。
 なんとなくあの研究室へ行ってみると、
「あっ、おねーさんだ」
「モモちゃん!?」
 セーラー服姿のモモちゃんがいた。

「学校は!?」
「先生に受験サボったってバレたら怒られそうだからサボった〜!」

 呆れた。

「怒られるのはいやなのね……」
「うん! いや」

 ならサボらなきゃいいのに、と苦笑しつつも、私はどこまでもじぶんに正直なモモちゃんに感心する。

「……モモちゃん、昨日はごめんね」
「んー? なにが?」
「昨日、いろいろうるさく言っちゃったから、わずらわしかったかなって」
「べつに〜? おねーさんの意見は嬉しかったし」
「え、そうなの? (ちょっと意外だ……)」

 きょとんとしていると、モモちゃんは無邪気な笑みを浮かべて、
「うん! 私はね、これでもひとの意見はちゃんと聞くようにしてるんだよ。でも、最終的にはじぶんでどうするか決めるの!」

 ハッとした。
 昨日はモモちゃんのことを、なんて世間知らずな子なのだろうと思ったけれど。

 違う。
 モモちゃんは、ぜんぜん世間知らずでも破天荒でもない。←そんなことはない。

 彼女はただ、ちゃんとじぶんを愛して、生きているだけなのだ。

「……ねぇ、モモちゃん」
「んー?」
「私ね、今進路で悩んでて」
「ふーん」
「このまま院に進むか、大学を卒業して公務員になるか」
「公務員になりたいのは、みんなが期待してくれてるからでしょ?」

 こくりと頷く。

「じゃあ、院に進みたいのはなんで?」

 モモちゃんに問われて、私はためらいながらも正直に打ち明ける。

「……研究がしたくて」
「なんで研究がしたいの?」
「好きだから。でも……」
「なんだ、ぜんぜん悩んでないじゃん」
「え?」
「好きなんでしょ? 研究。それなら院を選ぶ以外の選択肢なんてないじゃない!」

 そう言われた瞬間、胸のなかにずっとあった靄が、さあっと晴れていったような気がした。