――私は帰宅してから学習机に向かい、頭の中で絡まっている糸を整理した。

 ラブレターを入れ間違えたのは自分のミスだと思っていたのに、みすずが入れ替えてたなんて未だに信じられない。
 その時点で私と梶くんは両想いだった。
 それなのに、藍の手元に渡ったせいで期間限定恋人に。

 もし、梶くんとうまくいっていたら、藍のことをよく知らないまま夏休みが開けて「あぁ。転校したんだ」って知る程度だっただろう。
 それだけじゃない。
 今日までの思い出が梶くんで埋め尽くされていたかもしれなかったというのに……。

 でも、一つ驚いたのは、小学生の頃に赤白帽子をあげた子が藍の妹だったこと。
 それから4年間、私のことを思い続けてくれたなんて。
 高校で会えた時はどんな気持ちだったんだろう……。


 藍からもらったオルゴールを手に取ってゼンマイを回した。
 すると、いつもと変わらないメロディが体を包み込んでいき、無意識のうちに藍の顔が思い浮かぶ。

 いつもストレートに気持ちを伝え続けてきたのは、転校するまで時間がなかったから?
 最後は別れる運命だったのに、短い時間ですら私と付き合いたかったの?

『気がないなら放っておいてくれない? もうこれ以上変な期待をしたくないから』

 あんなに好きだと言っていたのに、どうして簡単に切り捨てられるの?
 ひまりちゃんがいるから?
 引っ越しちゃうから?
 昨日の返事で藍のことが好きだと言っていたら、一体どうするつもりだったの?
 藍の考えてることが全然わかんないよ……。

「忘れた方がいいのにどうして涙が出てくるのかな……。全然、わかんないや……」

 一体誰に相談すればいいんだろう。
 信用していたみすずもひまりちゃんも味方じゃなかったし。

 ……そうだ、気分転換しよう。
 なにか別のことをしていれば辛いことが上書きされるかもしれない。


 私は手荷物をまとめてから外へ出た。
 向かった先は映画館。
 なぜこの場所を選んだのかというと、映画に集中していれば辛い気持ちが少しは緩和されると思っていたから。
 しかし、スクリーンの光を浴びて映画に集中していたはずが、頭の中は昨日からの出来事がどっと蘇ってくる。
 泣ける映画じゃないのに一人で肩を震わす。

『お互い好きなのに、別れなきゃいけないなんて残酷だよな』

 以前、映画を見て泣いていた彼が言っていた言葉を思い出す。
 あれは、どーゆー意味で言ったのだろう。
 私たちがうまくいった時のことを想像していたのかな。
 ……ううん、ダメダメ。
 藍のことは思い出さないようにしないと……。