レモネードはよく冷やして

 さて。

 例によって「きたぞー!」の大声に「うるせぇ!」ではじまった、来訪。

 玲望はいつもに増して不機嫌だった。

 一ヵ月に一度程度起こる、このイベントが玲望は嫌いなのだ。

「さー、どこから手をつけるか……」

 瑞希は制服のネクタイを摘まんで胸ポケットに入れる。

 制服シャツは半袖なので、腕まくりをする必要は、今はない。

 これで邪魔になるものはないというわけ。

「まずは台所だなー。シンクとか結構くすんできてたから」

 瑞希がまず向かったのはキッチン。

 玲望はぶすっと言う。

「磨いてるっての」

「あとはレンジの掃除と……結構ゴミが溜まりやすいんだよな」

 あちこち見ながら算段を立てていく。

 なにしろボラ研部長。

 こんな計画はお手の物だ。

 実行するのは、もっとお手の物。

「あと、部屋のもん片しといて。掃除機かけるから」

 瑞希の要求には抵抗された。

「今から掃除機なんてかけたら迷惑だろ!」

 そんなことは百も承知の瑞希はそれを一蹴する。

「迷惑になるから日が暮れる前に済ますんだよ! ほらさっさとしろ!」

 そう言ってしまえば逃げられないとわかっていて玲望を急かす。

 玲望は整った眉を寄せて、「うぇ……」と言った。

 せめてもの反抗とばかりに。

 まるで掃除機を嫌がる子猫かなにかである。

 綺麗な見た目で、貧乏も表に出さないくらいにスマートで、おまけに料理上手な玲望の唯一の欠点。

 それがこの、掃除片付けがたいそう苦手であるという点なのであった。

 まったく、独り暮らしをしている身としてはだいぶネックになる欠点である。