「土産、買ってくるな」

「気を使わなくていいんだぞ。忙しいだろ」

「土産、買う時間はどうせ取るって。なにがいい?」

「そっか……じゃあ……海が近いんだよな、それなら海鮮っていうか、魚とか……」

 小さな声のやりとりをしているうちに、街灯が見えてきた。

 街灯の中でも見慣れたひとつのものである。

 玲望の住むボロアパートの前にある、これだけは大きくて立派なもの。

「お、着いた」

 すっと手を離した。

 住人が出入りしていないとも限らない。

 二人きりの夜はそこでおしまいになった。

 けれど寂しくなどない。

 今、このときだけ終わっても、続いていくものなのだから、なにも寂しく思う必要などあるものか。

「瑞希、今日は帰るんだろ」

 玲望が鍵を出すのだろう、ポケットを探りながら言った。

 残念だが、今日は帰らなければいけない。

 家にいる家族が待っている。

 今日のボラ研の活動の話を聞きたがるだろう。

 玲望を一人で部屋にするのはちょっと気が引けたけれど、あまりべったりしているわけにもいかないし。

 玲望とてそんなことは望まないだろう。

 瑞希が自分の生活をおろそかにしてまで自分と居たがるというのは。