夜の薄暗い中、二人で手を繋いで歩く。

 どきどきするのが、手を繋いでいるからなのか、それとも非日常の中だからなのかはよくわからなかった。

 どちらでも良いけれど。

 ただ、繋いだ手があったかかったのだから。

 いや、真夏なのだからあったかいを通り越して汗ばんでいる。

 良い感触かと言われたら、そういうことはなかっただろう。

 普段なら。

 今はそんなこと、微塵も感じなかった。

 特別な機会だから。

 特別な時間だから。

 むしろ心地いい。

 そのうち、きゅっと握り返された。

 瑞希の心臓がそれに反応して、ちょっとだけ跳ねる。

 それは玲望の、もっとわかりやすい受け入れであってくれたのだから。

 おまけに玲望は口を開いた。

「瑞希、来週から合宿だっけ」

 けれど口から出てきたのは、なんでもない言葉だった。

 実になんでもない言葉だった。

 こんなこと、教室や廊下の片隅でやりとりするものだ。

 ちっとも恋人同士らしくはない。

 特別でもない。

 なのに、確かに『特別』であったのだ。

 玲望からの気持ちが『特別』だ。

 こういうことをすんなり言ってくれるくらいには、瑞希とのこういうことを自然と受け取ってくれているという『特別』。

 そんなことを感じてしまうから、瑞希はもっと心臓が高鳴るし、また熱くしてしまうのだった。