「今日、家行っていいか?」

 授業が終わったあとに、隣のクラスの玲望を捕まえて、約束を取り付けた。

 それだけで瑞希のしたいことを察したのだろう。

 玲望は顔をしかめた。

 まったく、そんな顔はやめて欲しいものだ。

 仮にも恋人が家に行こうというのに。

 まぁ、やろうとしていることが玲望の気に入らないことなのだから、そういう顔をされる理由もわかるけれど。

「……嫌って言っても来るんだろ」

 渋々、という様子であったが玲望は受け入れる返事をしてくれる。

 瑞希はにっこりと笑った。

「そうだな。じゃ、部活終わったら行くから」

 懐柔するようなその笑顔に、玲望はますます嫌そうな顔をした。

「ゆっくりしてこいよ」

「はいはい、早く行きますよー」

 そう言って、ひらひらと手を振って別れたのが二時間弱前になる。

 ちなみに玲望は部活に入っていなかった。

 代わりにバイトをしている。

 貧しいのだから当然かもしれないが。

 学費や基本生活費やらなんやらは一応、家から出してもらっているようだが、お小遣いまではもらえないので自分で稼がないといけない……らしい。

 スーパーでレジ打ちのバイト。

 たまに売り物にならない食材や、賞味期限切れの惣菜なんかがもらえるらしい。

 生活費の節約にもなって一石二鳥なんだ、と玲望は言っている。

 でも今日はバイトもないはずなので、玲望は学校で友達と過ごすか、なにかほかのことをするか、もしくはさっさと帰宅して一人で過ごすかしているはずだ。

 さて、今日はどんなことになっているか。

 ちょっと楽しみになりつつ、瑞希は昇降口で靴を履き替えて、外へ出た。

 学校から近いところにある、玲望の家に直行だ。