断面にはレモンピールが見える。

 切ったことで香りが強くなって、玲望も気付いたようだった。

「これ、レモンピール?」

 すぐ気付くのは流石、料理上手である。

「ああ。あ、オレンジピールと勝手に替えちまったけど、それで失敗したりしないよな?」

「同じ柑橘系のドライだし変わらねぇよ」

 ちょっと不安だった点を言ったのだけど、玲望はしれっと言って、パウンドケーキを取り上げて皿に移していく。

「レモンもいいな。夏らしくて爽やかな匂いだし」

 一切れずつ皿に乗せて、端にフォークを置いてケーキの準備は整った。

 玲望は飲み物の準備をするのだろう。

 ちゃぶ台に置いていた、さっき持ってきた瓶に手を伸ばす。

 口が広くなっていて、ピッチャーと呼べるもののようだ。

「ああ。……あ、でも、バザーで出すのはオレンジのままにするから」

 瑞希が言ったことにはちょっと顔がしかめられた。

 意味などわかっただろう。

 眉間にしわを寄せて、「馬鹿だな」と言った。

 それはまったくいつもの玲望であった。