「お前は、怒らないのかよ」

 ふと、玲望が言った。

 瑞希がまるで考えていなかったことだ。

「……なんかあるか?」

 そのまま訊いてしまう。

 思い当たる節がない。

 玲望が数日、瑞希を避けたことだろうか、と思ったのだけど、どうもそれではなかったようで。

「俺、あのとき態度、悪かっただろ。……つまらないこと、した」

 気まずそうに言ったこと。

 瑞希はそこでやっと、玲望も自分のことを省みていたことを知った。

「や、それは俺が空気読まなかったせいだから……」

「そんなことないし、それとこれとは別だ」

 でも玲望は悪くないのだ。

 玲望の気持ちを考えずに行動した、自分のせい。

 瑞希はそう言ったのだけど。

 不意に玲望が動いた。

 膝を詰めてくる。

 ためらったようだったけれど、腰をあげて膝で立った。

 そしてどうするかと思えば、するっと瑞希の肩に手が回された。

 ふわり、と目の前に金髪が揺れる。

 一緒に柑橘のほの甘い香りも。

 瑞希に抱きついておいて、玲望はぎゅっと手に力を込めてくる。

「ごめん」

 耳元で聞こえたことは、さっきとは違う。

 もっとはっきりした言葉。

 瑞希は数秒動けずにいたけれど、ふっと顔が緩んでしまった。

 そろそろと手を持ち上げて玲望の体に回す。

「俺こそ」

 それですべて済んでしまった。

 久しぶりに感じた玲望の体の感触、あたたかな体温、シャンプーの柑橘の香りも、その中に感じるほのかな汗の香りも。

 すべてが心地いい。