「……よし。これで」

 材料がボゥルの中で混ざり合い、小麦粉を入れてさっくり混ぜて、最後に瑞希は小さなパックを取り出した。

 それはドライフルーツ、に似たものだった。

 ドライではあるが、皮しか入っていない。

 細かくカットされている。

 これはレモンピール。

 お菓子作りに使うために売られているものだ。

 スーパーに材料を買いに行ったとき、瑞希はプリントのレシピ通りにオレンジピールを使うつもりだった。

 けれど製菓コーナーに行ってオレンジピールを見つけたとき、隣にこれが陳列されていたのだ。

 レモンピール。

 レシピを勝手に替えてもいいものかと思ったけれど、オレンジピールとモノとしてはそう変わらないだろう。

 良いことにして、それを買って帰ってきた。

 パックを開けると、既にレモンの爽やかな香りがふわっと漂ってきた。

 ほの甘くて、ほろ苦くて、それ以上にきゅんと酸っぱいレモンの香り。

 ボゥルの中にぱらぱらと入れる。

 生地にさっくり混ぜ込む。

 色は変わらないけれど、これで完成だ。

 型に入れて、オーブンへ。

 焼き加減はオーブンによって変わってくるというので、瑞希はちょくちょく覗きに行ってしまった。

 やがてふんわり焼き菓子の香りが漂ってくる。

 レモンの香りも一緒に、だ。

 二十分近くが経ち、瑞樹がオーブンから取り出すとふっくらいい加減に焼けていた。

 竹串を刺してもなにもついてこない。

 ……上出来だ。

 ふっと瑞希の顔に笑みが浮かんだ。

 出来上ったパウンドケーキからは、レモンの爽やかな香りが漂っていた。