「おい! 待てって!」

 昇降口前。

 ここで上履きを履き替えなければ外へ行けない。

 そしてもう下校時間なのだ、校内へ行ったところでどうなるというのか。

 よって、瑞希はそこで玲望を捕まえることに成功した。

 腕を掴む。

 けれどばっと振り払われた。

 振り返った玲望に睨みつけられる。

「なに」

 そう言われたけれど、なに、もなにも。

 瑞希の言いたいことなんてひとつしかない。

「悪かったよ、お前のこと、考えなかっ……」

 謝るしかない。

 自分がいけないのだから。

 玲望に要らない不快を与えてしまったのだから。

「別になにも悪くないだろ。優しくするとこだったじゃん」

 玲望の言ったのは正論だった。

 実際、その通りだ。

 いくら玲望が恋人とはいえ、あそこは部活動としてしっかり対応するところだったのだから。

 けれどそれとこれとは別である。

「そうだけど……」

 でもどう説明したものか。

 瑞希の返事は濁ってしまった。

 その言葉と様子に、玲望はもう一度、顔をしかめる。

「そうだろ。それに返事、してないんじゃん。行ったら」

 ぎくっとする。

 返事。

 玲望はしっかり聞いていたのだ。

 瑞希が志摩に言われたこと。

 けれどそれは不本意だ。

 だって。

「別に返事もなにもないよ! ……『居る』なんだから」

 曖昧になった。

 居る、とは質問された『付き合ってるひととかいるのか』に対する答えである。

 でもこんな、まだひとのいる校内ではっきり言えるものか。

『お前がいるんだから』とは。