「あ、そ、そうですよね……もう少し、生地が固くないと抜けないですよね」

 志摩は何故か、ちょっと臆したような様子を見せた。

 瑞希は今度、不思議に思う。

 彼女は人見知りだっただろうか。

 初めて会う玲望に話しかけられたからだろうか。

 でも玲望が言ったのは優しいことだった。

「型抜きクッキーのレシピも用意するよ。瑞希に渡しとけばいいんだろ」

 玲望は瑞希を見てきた。

 その表情を見て瑞希はまたわからなくなってしまう。

 玲望の表情も、普段あまり見ないものだったから。

 別に睨みつけているとか、ぶすっとしているとかではない。

 笑みのようなものは浮かんでいるし、口調も穏やかだ。

 けれど、瑞希にはわかる。

 今のものが心からの笑みではないことが。

 どうしたというのか。

 玲望がいきなりこんな様子になったのかがわからない。

「あ、ああ……じゃ、俺が預かるよ。悪いな、手間かけて」

「いいや」

 瑞希の返事に玲望はまた妙な笑みのような表情を浮かべて、それで「俺、あっち見てくるから」と行ってしまった。

 瑞希は首をひねったのだけど、なんとなく感じた。

 玲望は不機嫌だったのではないかと。

 なにか気に入らないことがあったのではないかと。

 それがなにかはわからないけれど……。