「さ、じゃあそろそろはじめるか。A班はクッキー。B班はパウンドケーキ。C班はマドレーヌだ」

 部員をみっつの班に分けて、それぞれ違う菓子を受け持たせる。

 瑞希と玲望は特にどこの班にも所属せずに、あちこちを回って進行を確認する役に回った。

「調理実習みたいだねー」

「こういうのも楽しいな」

 おしゃべりは禁止でないので、わいわいと楽し気な会話が交わされる。

 まずしっかり手を洗って、次に材料計測から、と進めていく。

「あ、これね、もっとざくっと荒く刻んで。あんまり細かく切ると、食感が楽しめなくなっちゃうんだ」

 玲望が一人の女子生徒に声をかけるのを、瑞希はちょっと離れたところから見た。

 それはクルミを刻んでいる子だった。

 確かに、クルミの食感を生かすには少し荒めのほうがいいのだろう。

「あ、はい! ……このくらいでしょうか」

 女子生徒は玲望に声をかけられて、ちょっと顔を赤くしてクルミにもう一度向き直った。

 玲望はそれを見て僅かに笑みを浮かべた。

「そう、このくらい」

 玲望はちょっとぶっきらぼうなところがあるので、答えたのはそれだけだった。

 でもじゅうぶんに優しい指導だ。

 彼女はちょっと照れた様子で「そうします!」と玲望にお礼を言った。

 瑞希はそれを見て、微笑ましく思ってしまう。

 自分の大切なひとである玲望が、ひとにものを教えて、それを感謝してもらっている。

 なんだか自分まで嬉しくなってしまったのだ。