「タダイマー」

「なにがただいまだ。ここはお前のウチじゃねぇ」

 靴を脱ぎながら言ったことには、呆れた顔と声が返ってきた。

 今日やってきたのは玲望の部屋。

 相変わらず玄関は盛大な音を立てて、瑞希を迎えた。

 週末なのだ、今日は泊まりと決めていた。

 たまに週末とか長期休みとか、玲望の部屋に泊めてもらうことはある。

 親には「友達と勉強会」なんて言い訳、いや、報告をちゃんとしてある。

 勿論親とて丸々信じているはずはないだろう。

『勉強』なんて、やるにしてもほんのちょっとで、男友達とわいわい騒いでおやつでも食べながらゲームなんかしたりする、と思っているはず。

 それも多少はやるけれど、まさか男の恋人の家に行くとは思っていないだろう。

 それを思うとちょっと罪悪感は沸くのだけど、こういう機会でもないと、長く一緒に過ごせないので許してほしい。

 まるっきり子供ではないのだし。

「泊めてくれるっていうのに随分な言い方だ」

 ちっとも効いていないどころか、玲望のそういう物言いが好きなくせに、瑞希は少しがっかりだ、という様子をわざと取った。

 玲望は単純なことに、急に態度がしおらしくなる。

 物言いはぶっきらぼうなくせに、素直なのだ。

「そ、そういう意味じゃねぇよ……」

 苛めたようなものなのにそう言われて、瑞希はくすっと笑ってしまった。

 表にも出てしまったので、玲望に不思議そうな顔をされる。

 その頬に手を伸ばして触れる。

 きゅっと包み込んだ。

「ごめん、ちょっとふざけただけだ」

 こちらも素直に謝っておく。

 ふざけた、からかわれたと知った玲望は元通りの強気に戻って「ふざけるとかすんな!」とか瑞希の手を払って、先に奥へ行ってしまったけれど。

 それを追いながら、こういうやりとりができるのは幸せだ、と瑞希は思うのだった。

 そういうのが恋人同士のやりとりらしいと思ってしまうから。

「あー、腹減った」

 勝手にどかりと定位置に腰を下ろしてネクタイを緩める。

 ここしばらく随分暑くて、ネクタイすら少々邪魔なように感じてしまう。

「……飯、そうめんにした」

 多少機嫌は直したらしく、玲望もなにやら作業していた様子の文房具などを片付けながら言ってくれた。

「おお! そうめんか。夏らしー」

「夏だろ」