それはまるで、『嫌ではない』ではないか。

 数秒、意識が空白になったような気すらする。

 それは玲望の気に入らなかったらしい。

 覆っていた手を離して、きっと瑞希を睨みつけてきた。

「違うなら、ひとくちなんかやるかよ」

 さらなる衝撃が瑞希を襲った。

 最初からそう、だった、のか?

 そのくらい心許してくれていたから、ひとくちなんて、ペットボトルを寄越してきたのか?

 自分に尋ねたけれど、多分その通りだった。

 だって玲望本人がそう言っているではないか。

 それを疑おうなど。

 玲望は素直だ。

 そして嘘などつかない。

 こんな真剣であるべき場では余計に。

 ごくっと瑞希は唾を飲んだ。

 行く場所と、することなどひとつしかない。

「じゃあ、……もうひとくち、くれるか?」

 玲望は瑞希のその要望に、息をのんだようだった。

 一秒、二秒、固まる。

 けれど玲望の中でなにかが固まったのか。

 ぎゅっと目を閉じた。

 翠色が閉ざされる。

 顔を近付け、目を閉じる寸前、間近できらりと金色が光った。

 あまくて酸っぱいレモンのような、優しい色をした金色。




 レモン味だったな、なんてさすがにこのときは言わなかった。

 初めて経験したキスと、そして交わした気持ちにそんなふざけた言葉は似合わない。

 けれど瑞希のくちびるには確かにレモンの味が焼き付いたし、きっと同じ味を味わった玲望の心にも同じような感覚が残っただろう。

 帰り道、手も繋がず帰路の続きについた、ぎこちなさすぎる空気の中。

 それだけは何故か確信できた。