「寒いから仕方なくだよ」

 玲望らしい、照れ隠しとその中にある優しさ。

 飲む前からじわっと染み入るようだった。

「じゃあ、……もらうよ」

 覚悟を決めて、というと大袈裟だが、口にしたホットレモン。

 今度は胃の中にじわっと染み込んだ。

 あたたかな液体が喉を通って、胃に落ちていくのがはっきり感じられる。

 随分体は冷えていたようだ。

 口の中では、きゅっと酸っぱいレモンが弾けた。

 遅れて僅かに入っているだろうはちみつの甘い味も。

 そしてそこで弾けたのはレモンだけではなかったようで。

 どういうわけだろう。

 同じ味だ、と確信してしまった。

「うまいだろ」とにこっと笑う玲望が。

 そのくちびるが。

 同じホットレモンを飲んだからだけではない。

 レモンを表したような外見と名前の玲望。

 味わいたい。

 それは衝動だったのだろう。

 ずいっと身を乗り出していた。

 瑞希の行動があまりに唐突だったからか、玲望は身を引く間もなければ、不審に思う暇もなかったはずだ。

 ふっと目が丸くなるのだけがうっすら見えて、すぐに見えなくなった。

 代わりに感じられたのは、甘くて酸っぱい味。

 ただ、今のものは先程味わったホットレモンとは少し違っていた。

 あたたかいのも同じだけど、種類が違う。

 優しい感触と体温の味。

 混ざり合って、玲望の『レモン味』になっていた。