「二年の先輩がさ、なんかバイトして新しいコート買ったとか言ってたんだよ。今までのが地味だからっつってさ」

「はぁ。そりゃ羨ましいことだ」

 確かにコートひとつでも買うのに悩んでしまう玲望には、カッコいいコートを、バイトで貯めた金とはいえ、ぽんと買えてしまうその事実は羨ましいに決まっている。

 だが話はそんな、先輩の自慢話でも世間話でもない。

「んで、『地味だけど去年買ってほとんど着てねーんだよな。どうしよ』って言ってたんだけど『お前ら、欲しいやついるか? 格安で譲ってやるぜ』なんて。カッコワライ、なんてつきそうな言い方だったけど、冗談でそういうこと言うひとじゃないし」

「おお……っ?」

 瑞希がそんな話題を出した理由を知り、また期待がつのったのだろう。

 玲望の目が輝いていった。

「どうだろ、気になるなら先輩に聞いてみるけど」

 それが結論だった。

 玲望の目ははっきりと輝いた。

「ほんとか? お願いしていいのか?」

「ああ! おやすい御用だよ。地味だって言ってたから、学校で『先輩のお古だ』なんてわかりゃしないだろうさ」

「そうだよな!」

 そんなふうに話はまとまってしまった。

 どんなだろー、なんて早くもわくわくした様子の玲望を、瑞希はこっそり見た。

 力になってやれそうなことが嬉しかった。

 恩を売りたいのではない。

 好きな相手なのだ。

 してあげられることがあるなら、なんだってしてあげたくなってしまう。

 こういうとこが俺のいいとこで、でも良くないとこでもあるのかな。

 瑞希は心の中で思い、ちょっとだけ苦笑した。

 世話焼き気質。

 けれど過ぎたるは猶及ばざるが如し。

 やりすぎは自分にも相手にも良くないのだ。
 
 気を付けないとな、と、たまに意識するそのことを心の中で反すうする。