玲望はそんなふうに言ったけれど、実のところファーストキスもレモン味だったのである。

 覚えていないゆえにそんなことを言った、わけではないだろう。

 照れ屋な性格のために、なにがファーストキスだよなどと言ったに決まっている。

 もうそのくらい、瑞希には伝わってしまうようになっていた。

 レモン味のファーストキスは、甘酸っぱかった。

 それは六月の現在、つめたいレモネードを飲んだときの味と同じように。

 だけど甘酸っぱかったのは触れたくちびるだけがではない。

 それよりもっともっと甘酸っぱかったのは、心の中が、である。

 ほわっとあたたかくなると同時、きゅっと締め付けられるような甘さが胸に広がった。

 こんな感覚も感情も初めてのことで。

 感覚については聞いたことがないのでわからないけれど、キスの回数としては聞いたことがある。

「俺がファーストキス?」なんて茶化して、けれど本心ではちょっとどきどきしながら尋ねた。

 玲望は答えるのを渋った。

 やはり恥ずかしがり屋ゆえに。

 それでも最終的には言ってくれた。

「お前とのアレが初めてだよ」と。

 少々拗ねたような声と口調で。

 それが実のところ、拗ねているのではなく照れているだけだというのは、まだ付き合って一ヵ月と少しだった頃の瑞希にははっきりわからなかった。

 正しく理解するにはもう少し……数ヵ月を必要としたものだ。

 そのファーストキスの日。

 随分涼しい、いや、はっきり言ってしまえば寒い日であった。