「……超キレー! とか言いたかったんだが」

 浜辺に下りて、さくさく歩きつつ、玲望は言った。

 その内容は思い当たりすぎるから、瑞希は苦笑いする。

「ま、確かにそうだよな」

 確かに「海に行こう」なんて言ってやってきて、見られたものがこれでは。

 これも『海』ではあるが、きらきら輝く青緑も、さらさらの砂浜もここにはない。

 海自体は夜の暗闇に沈んで真っ黒にしか見えないし、明るくなったとしても『澄んだ美しい水』なんて言えないだろう。

 浜辺だって。

 砂浜なんて些細なもの。

 裸足で歩けば怪我をするくらい、石や貝殻や、なにかよくわからないものが転がっている。

 お世辞にもキレー、とはまったく言えなかった。

 都会から少し離れた程度の場所にある海では仕方がないだろう。

 それでも海に変わりはない。

 玲望の声は不満げではなかった。

「ま、海に変わりはないよな。潮風は同じだし」

 玲望が、すぅ、と息を吸い込むのが聞こえてしまうくらい、静か。

 玲望が言った通り、鼻をくすぐる潮風は心地良かった。

 しょっぱくて、辛いようなものも混ざっていて、でも爽快な香りだ。