言われて瑞希は驚いていた。

 そうだったのか?

 では何故口に咥えたりしていたのだろうか。

 食べていた……のとは違うと思うけれど、染め物にする、つまり染料にするのに味かなにかを確かめる必要はあるのだろうか。

「へー。染料になるんだな」

 先輩はなにも疑わなかったらしい。

 ただ、彼の手にしていたビニール袋を見ただけだった。

 そう大きな興味もなさそうだった。

「あの、駄目でしたか」

 彼はちょっと心配そうに言った。

 確かに、一年生の身では、良いか悪いかは簡単に判断できないだろうから。

 しかし先輩はぱたぱたと手を振った。

「いやいや、別によもぎくらい。育ててるわけじゃないから、持ってったらいいんじゃね」

 雑な反応だったが、彼はほっとしたらしい。

 ぱっと顔を明るくして「ありがとうございます!」と言う。

 それで話は一段落してしまった。

 先輩が瑞希を促す。

「さ、梶浦。俺らはあっちからはじめるぞ」

「あ、……はい!」

 そうだった、ここへはボラ研の活動できたのだ。

 謎のよもぎ男に会いにきたわけじゃない。

 でも彼が気になってしまう。

 よもぎを摘んで、あまつさえ咥えたりなどしていた相手だ。

 気になるに決まっていた。

 清掃場所と指定された裏庭のはしへ向かう間。

 ちらっと振り返ると、彼も瑞希を見ていた。

 その顔は言っていた。

 『まずいところを見られた』と。