「ほらほら、あんま力いっぱい漕ぐとヘバるぞ。まったり行こうぜ」

 普段、街中を漕ぐよりゆっくりめに漕ぎながら瑞希はアドバイスしたけれど、玲望はまだ不満そう。

「なにがっ! まったりだ! 俺、昼間半日バイトしてきたんだけど!」

 各所に力を込めて、文句を主張してくる。

「おお、お疲れさん。でも体力あるから大丈夫だろ」

「勝手に決めんな!」

 確かにその点は少々悪かったなと思ったけれど。

 酷いことだが、出発してから気付いたのだ。

 もう少しやり合ったけれど、走りながら言い合いをするのも体力を使う。

 だんだん言葉少なになっていった。

 海に行こう、なんて言ったものの、実は県内に海はない。

 隣県まで走って、更に海辺まで行かなければ見られない。

 それだって、言い方は悪いが上等な光景の海ではない。

 泳ぐなんてもってのほか、砂浜だって、多分ない。

 瑞希の行った、海水浴場のある綺麗な海とは天と地である。

 でも『海』に変わりはない。

 そういうものでもいいから、今、見たいと思ったのである。

 若いさかりの男子高校生の漕ぐ自転車だ。

 それに途中には山なんかの難所もない。

 ほぼ平地。

 だからちょっと時間はかかるだろうけれど、行けると思ってしまったのだ。

 そういう、たまに思い付きで行動してしまうのが、瑞希の行動的であり、ちょっとやんちゃな部分なのであった。

 普段は部活動の部長をしているくらいには、慎重派であるのに。

 でも今は部活をしているのではないから。

 やりたい気持ちのままになってもいいだろう、と思う。

 後付けの言い訳かもしれないけれど。