「強行軍すぎんだろ!?」

 はぁ、はぁ、と荒くなった息交じりで玲望が文句を言う。

「いけるいける。二時間もあれば」

 ゆっくり足を動かしながら、瑞希は笑みを浮かべた顔で言ってのけた。

「二時間もチャリ漕ぐことになるなら、先に言えよ!」

 それには思いきり噛みつかれてしまったけれど。

 そう、二人が乗っているのはそれぞれの自転車。

 学校に行くとき使ったり、ちょっとそのへんへ出掛けるときに使う、ごく普通の学生向け自転車である。

 お互い持っているそれを引っ張り出して、真夜中に海へ向かってレッツゴー! なんて漕ぎはじめた瑞希であった。

 玲望は大人しく自転車に乗ったものの、半ば流されるような形だったからだろう、しばらくキャンキャン文句を言っていた。

 確かにそうだろう。

 こんな夜中に近い時間に引っ張り出されて、自転車で遠出をさせられようなどと、思ってもみなかったはずだ。

 大体、瑞希本人だって思ってもみなかった。

 いくら時間が自由になる夏休みだからといって、いきなりこんなこと。

 でも行きたいと思ったのだ。

 今。

 玲望と二人で。