当たり前の疑問を口に出される。

 しかし玲望の表情を見て、瑞希はむしろ心を決めた。

 思いつき、というか、衝動で言ってしまったことではあった。

 でも悪くはないと思う。

 それに行けなくはない。

「海だよ。見たいんだろ?」

 笑って見せたけれど、玲望は数秒、ぽかんとしていた。

 そりゃそうだろう、こんな夜も更けて「海に行こう」なんて突飛すぎる。

「そりゃ、そうだけど……今から? 電車ももう終わるってのに?」

 玲望は、むくりと起き上がって、座布団の上にどかっと座った。

 まだよくわからないという顔の玲望に、瑞希はもう一度笑う。

「電車なんかなくたって行けるだろ。ほら、夜中になっちまう。行くぞ」

 一歩近寄って、ぐいっと腕を掴んだ。

 もう心は決まっていた。

 玲望の腕を引っ張って、立たせて。

 目を白黒させる玲望をアパートから連れ出したのは、もう夜もだいぶ更けた時間であった。