「ふー、今日は瑞希にご馳走になっちまったな」

 玲望も満足してくれたようだ。

 行儀悪く、ころんと畳に転がった。

 今度はクーラーの真下ではないので、良いことにしておいて瑞希は単に返しをした。

「バザーのときは、俺こそ世話になったじゃん」

 そうだ、バザー。

 玲望が一緒に焼き菓子を作ってくれて、ブースで売るのも手伝ってくれた、バザー。

 まだあれから二週間も経っていないだろうに、それから色々ありすぎて、もうずっと前のことのように感じてしまった。

「それはファミレスで奢ってもらったから、チャラだっての」

 そこからバザーで楽しかったことだの、そのレポートを書いてまとめただの、そういう話になった。

 けれどあのときのことを思い出したことで、瑞希の中に夕食のときに感じた気持ちが戻ってきてしまった。

 すなわち、今、独り暮らしの玲望のことである。

 幼い女の子に「妹を思い出した」と優しくしてやっていた玲望。

 瑞希の下手くそな料理を「ひとが作ったご飯が美味しい」と喜んでくれた玲望。

 そういうところが好きなのであるけれど、そんな、瑞希が普通に持っているようなものを持っていないということ。

 それがちょっと、引っかかるし、何故か自分のほうが寂しく思ってしまう、と瑞希は玲望と何気ない話をしつつ、思った。