夜が更け、あたりが完全に暗くなった頃、僕たちは河川敷へと足を運んだ。時刻は23時を回ろうとしている。
「やっぱりこの河川敷は明かりが少ないから星が綺麗に見えるね」
「寒い……」
 僕は今夜花火をすることに反対したが、結局アカネの押しに負けてしまった。
「トオル、聞いてる?」
「聞いてるよ。それより、今夜することはいいよって言ったけど、こんな深夜にするなんて聞いてないよ」
「だって言ってないもん。それより早く!」
「はいはい。さすがに花火の準備は手伝ってよ? こんなにたくさんあるんだから」
「わかってるよ」
 僕とアカネは袋に詰め込まれた花火を並べていった。手持ち花火、回転花火、噴出花火、ネズミ花火……。ドラえもんの四次元ポケットのように袋からは次から次へと豊富な種類の花火が出てきた。
「なんか多くない? というか、これ日付変わる前に終わる?」
「ギリギリには終わるんじゃない?」
「アカネの計画性の無さは、今も昔も変わらないな。まあ、もうここまで来たら気にしないけどさ」
「寒いから早くしようよ」
「この一番寒い時間にしたのはアカネだけどね?」
 準備が終わり蝋燭に火をつけ火種を作る。アカネは今か今かと待ちわびている様子だった。
 花火に火をつける。火花が舞い散るたび、アカネはどこか幼い無邪気な子供のような笑顔を浮かべ、僕もその笑顔につられて笑っていた。
 凛とした空気が漂う静かな河川敷に響く花火の音と、僕たちの笑い声。寒さを忘れるような輝きが景色を彩り、僕たちを包み込んだ。
「綺麗だね、トオル」
「うん、綺麗だね」

 あれからしばらくして、袋いっぱいにあった花火は残り少なってきた。
「あと何が残ってる?」
「残ってるのはあとは線香花火だけだね」
「そっか、じゃあどっちが長く持つか勝負しよう!」
 なんとも子供らしい考え方を持っているんだろう。
「それ二人だけで楽しい?」
「二人だからやりたいの! あ、そうだ。この勝負に負けた方は罰ゲームね!」
「罰ゲーム? 僕に何させるつもり?」
「秘密。でも負けたら絶対にやってもらうから」
「はいはい」
 僕は火が消えていた蠟燭に再び火をつけ線香花火の準備をする。すると何か冷たいものが手に触れた。手元を見ると、小さな冷たい結晶が指先に溶けて消えていくのが見えた。僕はふと立ち上がり、周りを見渡す。
「あ、雪だ……」とアカネが呟いた。